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『ゴベルシア』で情報収集を終え、満を持してオスマニア帝国の王都を目指すことにした。
情報収集の結果やはり『ヴァンパイア』の目撃情報の信憑性が高いということが分かり、騒ぎが起きそうなことに期待に胸を膨らませる一方、情報統制をしている『教会』の動きが気になっていた。
『教会』からすれば、亜人はもちろん『ヴァンパイア』も当然殲滅対象である。しかし『ヴァンパイア』は並の冒険者では手も足も出ないほどの高い戦闘力を持つ。ならば『ヴァンパイア』の目撃情報を方々に流して、『ヴァンパイア』に高い懸賞金をかけることで高位の冒険者を誘致するのが得策ではなかろうか。
と、ここまで考えて、それ以上の事は現地に赴いて考えようと思い、一応俺のように噂を信じて『ヴァンパイア』を討伐するために来る…かもしれない高位の冒険者を警戒するため、人間に擬態したまま帝国内を移動することにした。
『マンティコア改』形態での長距離の移動に慣れたためか、人間形態での移動は遅々としたものに感じられた。もちろん人間形態でも全速力で移動すれば『マンティコア改』形態に近い速度で移動は出来るが、二足歩行で長距離の高速移動は体力の消耗スピードが半端なく早いのだ。
そんな疲労した状態で俺の『索敵』を潜り抜けるような強者と会敵してしまえば…想像するだけでも恐ろしい。まぁ、そんな状態でも今の俺に勝てる相手などほとんどいないのは分かっているが、いかなる状況でも油断しては駄目なのだと散々学ばされてきた。その為並の人間よりは速いが驚愕するほどの速さではない、絶妙な速度で目的地を目指して移動している。
道中は僅かな時間を惜しんで能力の習熟を…今までの俺ならそうしていただろうが、今の俺はちょっと違う。なぜなら、わざわざ『本体』で能力の習熟に勤めなくても『分体』がその役目を十分に果たしてくれるからだ。
『分体』が獲得した経験値と魔力はすべて本体である俺に還元される。『分体』が経験していることも俺が経験していることだから、当然と言えるだろう。ならば能力の習熟はどうだろうか。試してみた所、ちゃんと本体である俺にも訓練の成果が反映されていたのだ。
そのため手の空いている『分体』にはありとあらゆる能力の訓練をさせている。冒険者に擬態させた『分体』には人間形態時での戦闘能力を向上させるためで剣術や魔法の訓練をさせ、周囲に人間がいない『分体』には『眷属』から入手した多種多様な能力の訓練をさせている。
『眷属』といえば、『眷属』が新しく獲得した能力は、今まではその『眷属』の一部を『同化』することで獲得してきたが、進化によって俺達の間にあるパスを意識するだけで能力の譲渡が出来るようになっていた。
そのためわざわざ新しい進化をした『眷属』のいる遠い地まで移動する必要はなくなり、随分と楽が出来るようになったと感激した。まさに進化様様だ。
とはいえ、道中何もすることが無いというのも寂しいと思い、結局は『索敵』の能力の訓練をその時間に充てることにしている。まぁ、どのみち警戒をする必要はあるのだからな。その精度の向上は必要不可欠だろう。
実際、先のバラビア王国の精鋭兵による奇襲を喰らってしまったのは、俺の『索敵』の能力が未熟であったためだ。もし、より高い精度で使用することが出来ていれば、正面から魔道具を持った兵士が近づいてきていることに余裕をもって察知できていたはずだ。
そのため今は、ありとあらゆる状況を想定して能力の向上に努めている。
人間の持つ魔力の揺らぎを察知することで、相手が身体的に負傷しているとか精神的に疲労しているかとか、攻勢にでようとしているのか守りに徹しようとしているのか…そういったことまで察知できるようになれば俺の戦略の幅はより広がるだろう。
実際何体かの『サーチ・スライム』がそういった能力の向上の訓練を始めていた。今はその『眷属』と情報交換をしながら訓練をしている。訓練の結果が実を結ばないかもしれないが、その時はその時だ。何よりも強くなるための努力をしているという状況が、俺を安心させてくれている。
それでもやはり、すっぱりと諦めることが出来そうなのは、大量の『分体』によって常時様々な訓練が出来ているという、仮に『索敵』の訓練が実を結ばなくても他の訓練は順調に進んでいるという心の余裕があるためだろう。
そう言った感じで、普段より『索敵』の能力の行使に気を使っていたからだろうか。遠い場所でそこそこ大きい魔力が一か所に固まって、先程から一切動いていない気配を察知することが出来た。
あの場所は…『ゴベルシア』で仕入れた情報では村があるわけでもないし、冒険者が拠点を構えるような重要な場所というわけではない。周りに何もない場所だったはずだ。
そして固まっている魔力の中に明らかに人間のものでない魔力を宿している者がいた。これは…早速、目当ての者を見つけたか?幸い今の俺の周りに人の気配はない。何が起きているのか知りたい、はやる気持ちを抑えきれず『マンティコア改』形態に擬態して、現場に急行することにした。




