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 ようやく3体目の分体も作り終えた。分体にかつて殺した冒険者のタグを渡し、憂いの無くなった俺はメウリージャを去ることにした。お世話になった人たちに報告を忘れない。今後何があるから分からないからな、せっかく作った人脈を無下にはしない。


 オスマニア帝国はメウリージャから南に位置する。魔導工学技術が発展しており、国土も広く豊かな大地も広がっておりその経済規模は近隣諸国を圧倒している。メウリージャから馬車で2カ月の場所にあるが当然馬車に乗ってのんびりと移動するつもりはなく、『マンティコア改』形態に擬態してから迅速に移動する。


 道中も『索敵』に特化した『分体』をいくつも作り、街道に配備することで情報収集に手は抜かない。寄り道もしたが、1週間ほどでオスマニア帝国の国境までたどり着くことが出来た。


 国境から『ヴァンパイア』の目撃情報があったとされる王都までは馬車でさらに2週間ほどかかるらしい。そのまま王都に向かうのは少し不用心かと思い、国境近くにある、オスマニア帝国でも3番目に大きい都市『ゴベルシア』に立ち寄ることにした。


 そこは帝国でも3番目に大きいというだけあって城壁は高く、門の前にも多くの人が並んでいるのが見えた。比較的裕福そうな商人の格好をしている者の割合が、今まで訪れた都市よりも多いと感じた。


 恐らくは他国の商人がこの都市に高性能な魔道具を購入しに来ているのだろう。そして、その商人の護衛と思われるそこそこ強そうな冒険者の数もまた多い。彼らは俺が列に並んでいるのをじっと観察してくる。


 まぁ、街から一歩でも外に出れば魔物が蔓延るこの世界、1人旅をしている者は珍しいからな。「盗賊が獲物(商人)を物色に来ているのかもしれない」そんなことを思い、警戒しているのかもしれない。だとしたら、この雰囲気にも納得がいく。


 仕方ない。これ見よがしにマジクのミスリル級冒険者を示すタグを取り出し、俺の動きを逐次観察してくる冒険者に見せつけるようにそのタグの汚れを拭う。ミスリル級冒険者相当の強さを持つ盗賊なんてめったにいないからな。これで彼らの警戒心を解くことが出来ればいいが…


 その願いが通じたのか冒険者達の視線が逸れた。良かった、こんなところで、こんなつまらないことが原因で騒ぎを起こすつもりは毛頭ないのだ。ちなみに俺の後からきて並び始めた商人や冒険者達も、皆に似たような反応をしていた。


 あまりいい気はしなかったが、彼らの気持ちも分からないでもない。実はこの国、オスマニア帝国は近くに大きな湖があるとかで、地理的な環境で年中どこかで霧が発生しているのだそうだ。


 視界を遮る霧が発生するとどうなるか。当然冒険者からすれば護衛対象を守るのが困難になるし、商人を狙う野盗からすればその分だけ奇襲が成功しやすくなり仕事の成功率が上がることに繋がる。つまりここらにいる冒険者は、普段から気を張り詰めておかなければならないという事だ。


 と、言う話を先ほど仲良くなった冒険者から聞くことが出来た。何でも、先ほどまで不審者を見るような目で観察していたことに対する詫びだとの事だ。俺が不審者であることは正解だからな、快く許してやることにした。


 それにしても、こういった現地でないと入手できない情報は貴重だと改めて感じた。百聞は一見に然り。メウリージャで仕入れた情報だけを頼りに、王都まで行かなくて良かったと思った。無論、この情報がどこまで役に立つかは分からないが。


 実際、俺には『索敵』の能力がある。これがあればどんなに視界が悪くても敵の位置を補足出来るからな。余程の事でもなければ、不意打ちを喰らうということは無いだろう。


 「それにしてもアンタ、どうして1人旅なんてしているんだ?」


 「1人で行動するのが好き…と言うのもあるが、武者修行の旅、という感じかな。最近自分の強さに色々と思うところがあってな」


 「ミスリス級までいきゃ十分だろ。冒険者とすりゃ超が付くほどの一流じゃなねぇか。…それにしても武者修行か…もしかして例の噂を聞きつけて来たのか?」


 噂と言うのはヴァンパイアの事だろう。何か重要な話を聞ければいいが…


 「ただの噂だろ?ここには別の目的で立ち寄ったんだが…もしかして信憑性が高い噂なのか?」


 「分からん…が、聞いた話だと『教会』の連中がその噂の鎮静化を図っているとかなんとかってのをチラっと聞いたことがある」


 「何でまた『教会』が?その噂が嘘ならほっといても噂そのものが自然と立ち消えるだろうし、本当なら『ヴァンパイア』の危険を知らせるために、むしろその噂を広めるように行動するんじゃないのか?」


 「俺もそう思う。だからよく分かんねぇんだよなぁ」


 そんな話をしていると彼らの入城の順番が来たとかで先に都市の中へと入っていった。色々と分からないこともあるが、やはり王都に入る前にこの都市で情報収集をしようと決めたのは正解だったと感じた。

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