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 『メウリージャ』。広大な平野といくつもの重要な街道が近くを通り、平野を流れる広い運河によって周辺諸国から様々な物資が運び込まれることで集積地として類を見ないほどの莫大な経済効果をもたらしていた。


 広大な平原によって食料の生産量も高く、おまけに数少ない鉱山からは希少金属アダマンタイトも算出している。物もあれば金もある。ついでに人口は100万人を超えるという超巨大都市。まさに情報収集にはうってつけな場所であると言えるだろう。


 この都市では特に悪いことをしようと企んでいるわけではないので、久々に金級冒険者『ネス』の姿で入城の手続きをすることにした。正直、このままこの姿を使わなければ、かつての自分の顔を忘れてしまいそうになるかも…という不安もあった。


 そう決めたのは良いが、なかなかこの都市に入ることが出来ずにいた。人がたくさんいるという事は当然、入場の手続きに時間がかかるという事だ。もちろん門兵の数も多いだろうが、こればかりはどうしようもないという事だ。


 今まではこのような時間は手持ち無沙汰、もしくは眷属との『念話』で間を持たせていたが、今は違う。『分体』の操作に意識を集中すれば、この程度の時間など簡単につぶすことが出来る。


 しかし『分体』といってもかなりの数を作り、『自立モード』にして散開させているからな。どいつにしようか考えて、アーロン様に転移してもらったドヴェル共和国との交流の窓口になっているエルフの里にいる奴に意識を向けることにした。


 今は里長と、里の警備について話し合っている。『自立モード』中だとその『分体』が得た情報は逐次俺に入ってくることは無いが、その『分体』に意識を向けると即座に情報が本体である俺に還元される。


 ちなみに『分体』が消滅したときも同様である。消滅する寸前まで敵の情報を入手できるというのは戦いにおいて重要なものになるだろう。まぁ、『自立モード』とは言え俺の『分体』が分の悪い戦いに策もなしに赴くとは思えないが。


 「と、言った感じでゼロさんは森の境目付近の警備を担当してもらいたい」


 「了解です。ちなみに里の警備隊との連携についてはどうしますか?」


 「……ん?ゼロさん、少し雰囲気が…」


 「気付かれましたか。今は『本体』の俺が、こいつの主導権を握っています」


 「あぁ、やはりそうですか。いきなり変わってしまったので、すこしびっくりしてしまいました」


 この里長が言うように、俺の『分体』は『自立モード』だと、雰囲気が少し無機質なものになってしまう。勿論人間の都市で活動させる『分体』がこうでは周囲から浮いてしまうので、色々と頑張って抑揚のついた、感情を持たせた話し方をさせることが出来るようになった。


 ただ、そのためには最初に消費する魔力が他の『分体』よりも少し多くなるので、エルフの里やレオン達に預けている『分体』、そして各地でただのスライムとして活動させている『分体』にはこの措置はとっていない。つまりこうして俺が主導権を握るとあっさりとバレてしまうのだ。


 「警備隊との連携については追々固めていきましょう。運用実績があまりない状態ですべてを決めてしまえば、後から改善するのが難しくなるでしょうからね。…そう言えば、すでに眷属の方々がエルフ国の首都を中心に、各里に配属され始めたとか?」


 「ええ、アーロン様の迅速な行動にこちらも感謝しています。残念ながらすべての村や町に配属できるだけの数は用意できていませんからね。『分体』であればいくらでも用意できますが、『分体』は本体である俺に何かあったとき、どうなってしまうか分かりませんからね。やはり各地に配属するのは『眷属』の方でないと」


 「その懸念はご尤もと言えるでしょうな」


 「同じような理由で『眷属』に指示を出すポジションに『分体』は就かせませんでした。やはりいざという時、指揮をとるものが不在になってしまう可能性は避けたいですからね。まぁ『いざ』という時が来ないのが一番いいんですが」


 「ははは、違いありませんな」


 その後ドヴェル共和国との交易の件について尋ねたところ、バラビア王国との戦争も終わり安全に移動することが出来るようになったと行商人から連絡があったとのことだ。


 向こう数年間は交易の安全が保障されるかもしれないが、バラビア王国が国力を回復した後の事は分からないので、一応は気を付けるようにと伝えておいた。ちょうどそのタイミングで入城の番が来たので断りを入れて『分体』を『自立モード』に戻す。


 その後手続きをして何とか都市の中に入ることが出来た。随分時間がかかったな…そんなことを考えながら日が暮れてきたのでその日の宿に向かうことにした。

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