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『終ワッタゾ。ゼロ、次ハドウスレバイイ?』
『冒険者達の拠点はここを除いてあと2か所ある。この拠点を潰した今、混乱に乗じて逃げるだけなら簡単にいくと思うが、お前はどうしたい?』
『俺ハ、コノ拠点ヲ襲ウマデニ幾ツモノ村ヲ襲イ多クノ人間ヲ殺シタ。数ダケヲ見レバソノ時ニ殺シタ方ガ上回ル。ダガ得ラレタ経験値ハ今回ノ方ガ遥カニ多イ。効率ノ面カラスルト、ヤハリ冒険者ト呼バレル者達ヲ殺ス方ガ良イノダロウ。俺ハ残リノ2カ所モ襲イタイト思ッテイル』
『了解。残る2か所のうちの1か所は金級冒険者達が拠点にしているから、後回しにしておこう。残るもう1か所は銀級冒険者がいるが、この拠点と同じようにメンバーのほとんどが銅級冒険者で占められていて、人数もここより少ない。特に策を弄せずとも正面から突撃しても問題なく勝てるはずだ。距離は……まぁ、ジルの足なら夜明け前までには十分到着すると思う。もちろん『万全の状態』という条件は付くが、体に異常はないか?』
『問題ナイ。ムシロ位階ガ上昇シテイルオカゲモアッテカ、戦ウ前ヨリモ良イクライダ』
『それは良かった。道案内は16番に任せてあるから彼の指示に従って行動してくれ』
その会話の後16番とのパスを切り、これから向かう拠点に配置している眷属とパスを繋ぎ直す。ジルがこの拠点も襲撃する可能性も踏まえて行動させていたので、この拠点を囲むように設置してある罠などの解除はしていなかったが、いつでも解除できるように配置されてある場所と内容はすでに把握済みである。
冒険者達も外敵に簡単には見つからないようカモフラージュを施してはいたようだが、そういったカモフラージュはその能力を上から見下ろした時に十全に発揮されるものであり、スライムの様に下から見上げれば簡単に見つけることが出来たそうだ。すぐにこの個体を除く、この拠点周辺にいる他の眷属にジルが通る道に設置してある罠を解除するよう伝え、この個体の体を使って冒険者達の様子を窺うため拠点の近くまで移動する。
やはりここでもこのスライムの姿を見つけた夜番をしている冒険者達も、一瞥しただけですぐに興味を失ったようで仲間との会話に戻ってしまう。
変に怪しまれないように冒険者達が集まっている場所から、少し離れた所に捨てられているゴミを吸収する振りをしながら彼らの会話を盗み聞きする。しばしの間そうしていたが、やはり内容は先ほど襲撃した拠点にいた者達と似たり寄ったりであり、主な内容はオーガが見つからないことに対する不満を言い合っているというものであった。
この場所でしなければならないことも特にないなと思っていると、ジルがすでに近くまで来ていると念話が届いた。位階が上昇したことにより肉体能力がかなり上昇していたのだろう、想像していたよりもかなり速い。事前に罠を解除したルートを伝える。
それからしばらく待っていると、森の方から物音が聞こえたと同時にジルが飛び出してきて夜番をしている冒険者達を瞬く間に斬殺した。その音に気が付いた冒険者達が各々のテントから出てくるがそれをその都度殺していく。そうした作業にも似た行動をしばらくの間続けていると、すべての冒険者を仕留めたのだろう、テントから出てくる冒険者はいなくなった。想像よりもかなり一方的な戦いになってしまった。
さて、残る拠点は後一か所。だがそこには金級冒険者がいるということもあり一番の難所でもある。これまでの様に簡単にいくとは思えない……などと思っていると、ジルの様子が少しおかしいことに気が付いた。
『おい、どうしたジル。体調が悪いのか?』
『イヤ、問題ナイ。ムシロ絶好調トイイタイトコロダ。何故ナラ進化スルカラダ。』
『何っ!それは朗報だ。16番、邪魔にならないようお前はジルから離れておけ』
『すみませんゼロ。実は私も進化しそうなんです。ちょっと今は動けそうにないんです』
まさかに2体同時に進化するとは…もしかすると戦闘中は進化しない仕様にでもなっているのか、はたまた進化するタイミングが偶然重なってしまったのか。いや、今はそんなことはどうでもいいか。
ただ一つ言えることがあるとすれば、もしかしたら残り一か所の拠点も案外楽に壊滅することが出来るかもしれないということだ。