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アルマさんとグレイグ将軍が決行した作戦は無事に成功した。
関係各所の要人が集まった議会に俺の『分体』が『擬態』したドワーフに突撃させ、これまでの悪事を『かなり』脚色して告発させた。モルガナ商会と強い繋がりを持つ議員は声を大にして反論したが、ぐぅの根も出ないほどの決定的な証拠をアルマさんが事前に用意、それを提出することで見事に黙らせることが出来た。
そこからはグレイグ将軍の仕事。あらかじめ信用できる配下を王都に集結させており、議会の途中でありながらモルガナ商会の本店に強制捜査を執行。隣国が壊滅状態であり混乱の最中にあるモルガナ商会はこれに碌に対応することが出来なかった。
本来ならいかに強襲したとはいえ決定的な証拠がそう簡単に見つかるはずもないが、これもまたアルマさんが事前に見つかりやすい様に手配済みであり、関係者らが証拠の隠滅を図る前に確保。その証拠を持って商会の幹部たちを次々と逮捕、拘束していった。
次に行ったのはモルガナ商会と協力関係にある議員の拘束だ。
これもまたアルマさんが事前に調査済みであり決定的な証拠も確保済みであった。最後まで認めようとしない、あきらめの悪い議員もいたが聞き取り調査と称してその議員の秘書を『支配』することで、その秘書に罪を認めさせ拘束する大義名分を手に入れた。
そう言った感じで『教会』との繋がりがあった裏切り者の大半を捕まえることは出来たが、肝心の『教会』とのつなぎ役を見つけることが出来なかったのは少々心残りであった。
こいつはかなり用心深い性格らしく、モルガナ商会と連絡を取るときも何人もの人を挟んでおり商会の幹部ですら顔を知らないという有様だった。
おまけに隣国であるバラビア王国が俺によって壊滅寸前にまで追い込まれて以降は、連絡を取ることが無くなったのだそうだ。俺とグレイグ将軍との繋がりを見抜いたわけではないだろうが、それでもモルガナ商会に大きな隙が生じることを恐れて連絡を絶っておいたのだろう。その用心深さは俺も見習わなくてはならないと素直に感心した。
議会の裏側で色々と動きがあり、会議の途中でありながら何人もの議員が反逆罪で拘束されていた、まさに激動という名に相応しい議会も何とか終わることが出来た。驚くべきことに約2割の議員が『教会』、もしくは『モルガナ商会』との繋がりを持っており、議会の終わるころには議席に空きの目立つ、随分と物寂しい装いを呈していたそうだ。
無事逃げ延びた商会の関係者の動向は2つに割れた。1つ目はドヴェル共和国の地位を捨て新天地に逃げた奴らだ。こいつらは正直どうでもいい。多分この国に戻ってくることは一生無いだろうから。面倒なのはもう1つの方だ。
こいつらは、自分たちの築いてきた地位を捨て去ることが出来なかったのだろう。何とか自分の地位を守ろうと裏で色々と動いていた。中には議会の途中でグレイグ将軍を暗殺しようと、暗殺部隊を派遣してくる奴もいた。
捜査を主導しているグレイグ将軍が死ねば、うやむやになるとでも思ったのだろうか。しかし、残念ながらグレイグ将軍はこの国でもトップクラスの強さを持っている。暗殺なんて簡単にはいかないだろうし、彼を守るのは彼が育て上げたこの国での精鋭部隊。初めから彼を暗殺するのは不可能であったのだ。
暗殺部隊を返り討ちにし、暗殺者から情報を引き出そうと拷問をしている最中に第二の暗殺事件が起きた。いや、正確に言うと未遂事件だが。標的は最初に議会に出席してモルガナ商会の国に対する裏切りを告発した俺の『分体』だ。
全身を矢で貫かれ、はたから見れば間違いなく死んでいる。だがこいつの正体は俺の『分体』。つまり『本体』である俺の核さえ無事なら幾千本の矢に貫かれようと、問題なく活動できる。まぁ、仮にこいつが細胞がひとつ残らず消滅したとしても、『本体』である俺が無事ならいくらでも替えがきくのだが。
暗殺未遂事件があった翌日の議会に証人として出席させたところ、1人の議員が顔を真っ青にしていたのだそうだ。ちなみにその議員はアルマさん調査から逃れていた人物らしい。その議員の背後関係をもう一度洗い直したところ、彼もまた『モルガナ商会』から少なくない献金を貰い、人間達を支援するようにと頼まれていたのだそうだ。
これまでは上手い事立ち回っていたようだが、最後の最後で詰めを誤ってしまったようだ。とは言え、恐らくは派遣した暗殺者からは確実に殺したと報告を受ていけたはずだ。その対象が元気な姿で議会に登場すれば動揺してしまうのも致し方なしであろう。
こちらとしては捜査が楽になったと後からグレイグ将軍に感謝された。結果から見れば『分体』が受けた傷も数時間もあれば自動で回復できるので、非常に小さな損耗で大きな成果が出て大満足だった。
万事解決…そう言いたかったが、残念ながらそうはいかないこともある。『教会』や『モルガナ商会』との関係が無いにも関わらず、人間に援助しようと主張する議員もいたからだ。
脳内が完全にお花畑の彼らにこちらから何かすることも出来ない。証拠を捏造し排斥することも出来るが、大義のない行いには少なからず抵抗もある。そうした議員を黙らせるために、わずかではあるがバラビア王国に支援をすることが決まってしまった。彼の国のトップが変わったことだし、もしかしたら関係が改善されるかもしれない…そんな淡い期待を抱いてのことだそうだ。
そんな感じで、特に俺が出張らなければならないような状況は訪れないまま月日は流れ、大方の裏切り者の粛清が終わり以前よりも良い国になったとアルマさんからの報告があった。




