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 ボスが3度目の進化を果たして幾ばくかの月日が流れた。その間もボスに追いつけ追い越せと切磋琢磨し日々精進してきた我々…と言うよりは、私は看過することのできない大きな問題に直面することになった。


 この問題を解決する方法は恐らくは無いだろう。なぜ、日々努力してきた私がそのような目に合わなければならないというのか。悔しいと思う反面、私にそのような惨めな思いをさせている奴らに怒り…いや、憎しみにも似た感情を抱いてしまう。


 奴らも私と同じ気持ちを味わえばいいのに…そう思うが多分その願いが叶うことは無いだろうという諦めにも似た気持ちもある。それでも…恨まずにはいられない……!


 『おう!どうしたんだリーダー!最近元気ないじゃないか。つい最近まで『俺がリーダーなんだから』とか散々威張り散らしてたのが嘘みたいじゃねぇか!』


 『うるさい、黙れ!貴様に俺の何が分かる!』


 『…リーダーは自分のアイデンティティがこの中で一番弱いことに悩んでいる。情けない話だ』


 『黙れと言っている!大体なんだ貴様らは!つい最近まで俺と似たような立場だったくせに…新しい種族に進化したからと言って、急に調子にのりやがって…!』


 『それはリーダーにも言えたことじゃないのか?俺達がアイデンティティに悩んでいた頃、当時はまだ珍しかった『サーチ・スライム』であることを散々鼻にかけていたじゃないか。それを今更…』


 そう、俺が悩んでいる理由。それは俺が『リーダー』を務めている精鋭部隊の眷属が皆、特殊な進化を果たしたことだ。


 『アシッド・スライム』が『アシッド・フォグ・スライム』に、『アイアン・スライム』が『アイアン・フレックス・スライム』に、そして『ポイズン・スライム』が『ポイズン・ガス・スライム』にそれぞれ進化したのだ。


 冒険者ギルドの書類にこいつらの情報は無かった。つまりボスの様な全く新しい種であるということ。本来なら命名権はボスにあるのだが、特殊な進化をした褒美として各自に命名権が与えられたのだ。


 最初に進化したのは『ポイズン・スライム』だった。何でもボスが建物にこもっている人間を効率的に殺す術について相談を受けた時に『毒ガス』を使った殺害方法を提案し、それが認められたのだ。そしてその時に自分の進むべき道をそれと定め、その日以降さらなる努力を続け特殊な進化をするに至ったのだ。


 『アシッド・スライム』の奴は、そんな『ポイズン・スライム』の努力する姿に感化された。そして、自分の進むべき道を奴と同じ方角に向けることにしたのだ。そうして新しい能力『酸霧』を手に入れ、それを鍛え上げることで特殊な進化を手に入れた。


 この時に私は多少焦っていたが危機感までは感じていなかった。なぜなら『アイアン・スライム』、こいつは先の2体とは全く違った能力であり、奴らのように特殊な進化をすることは無いと考えていたからだ。しかしそれは違った。『アイアン・スライム』もまた、私を裏切り…水面下で努力を続けていたのだ。


 これにもまたボスが関係してくる。ボスは少し前、ほんのわずかな隙を突かれて近くで爆発する魔道具を使用されてしまい、少なくないダメージを負った。この時にはすでに『アイアン・スライム』の中で、自分の進むべき道を定めていたのだろう。


 「柔よく剛を制す」と言う言葉がある。強力な「剛」による爆発によって自信を守るのはより強力な「剛」ではなく、「剛」をしなやかに押さえ込むことのできる「柔」であると考えたのだ。そして『アイアン・スライム』は『軟鉄』という能力を手に入れ、それを鍛え上げることで『アイアン・フレックス・スライム』に進化してしまった。


 私がその事に気が付いたときはすでにすべてが手遅れだった。そして…もはや私の仲間はどこにもいないということを、否が応でも認めざるを得なかったのだ。この怒りを…憎しみを…!一体どこにぶつければいいというのだ!………とりあえずボスに相談することにした。


 『……緊急の要件だからって言うから何事かと思ったら…そんな事かよ』


 『そんなこと…ではありませんよ!私にとってはこれ以上ない危機に瀕しているのですよ!』


 『そう言われてもな…下手なことを言っても19番を傷つけるだけかもしれないし…とりあえず俺が言いたいのは、今のままの19番でも一切の不満は無いという事ぐらいだな』


 『…!で、ですが、私の様な特に目新しい特徴のない『サーチ・スライム』など、ボスのお役にそれほど立ってはいないのではないでしょうか!?』


 『そんなことは無いさ。19番がリーダーとして色々頑張ってくれているのは知っている。実際、19番の指揮下に入った眷属達から犠牲になった個体は出ていないからな。それなりの量の経験値も定期的に送ってくれているし、この調子で頑張ってくれ』


 『あ…ありがとうございます!この調子で、ボスのお役に立てるよう、全身全霊で努力したいと思います!』


 『お、おう。ま、ほどほどに頑張ってくれ。お前に倒れられても困るからな』


 私は今まで何を小さいことに悩んでいたのだろうか。そうだ、アイデンティティなど必要なかったのだ。ボスに必要なのは、そんなものではない…そんなことに今まで気が付けなかった自分が恥ずかしい。


 ボスの…いや、我々の目的は『奴ら』に復讐をすること。その目的の前ではアイデンティティなど些事に過ぎなかったのだ。そんなことにかまけている時間などなかったのだ!…と、自分を鼓舞したが、やはりアイデンティティは欲しいなぁと思う今日この頃。

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