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「はぁ……はぁ……。俺達と別れた時より…かなり…強くなっているな…」
「まぁな。ただ、進化によって上昇した身体能力でゴリ押ししているだけで、技術面ではまだまだだ。さっきの模擬戦でも、レオンには色々と学ばせてもらったよ」
ドヴェル共和国に戻った俺はレオンからの手厚い歓迎を受け、いつの間にか模擬戦をするという運びになった。自分の能力を客観的に判断してくれる存在と言うのは非常にありがたい存在だ。
そうして始まった模擬戦。レオンの動きを見ると以前よりも強くなっていたようだが、俺はそれを上回る強さを手に入れており、俺の勝利で模擬戦を終えることが出来た。
「ゼノンから奪った魔道具にパラサイト・スライムにより強化した身体能力。そうしたバックアップがあったにも関わらず、こうも一方的な戦いになるとは…短い期間でミスリル級冒険者まで昇格したことで、いい気になっていたのかもしれないな。少し自信を無くしてしまいそうになるな」
「俺も途中までは一方的にバラビア王国を攻略していっていたが、有象無象と思っていた兵士に手痛い攻撃を喰らってしまったからな。その気持ちは痛いほどよくわかるよ」
実際、あの魔道具による反撃は俺にとって良い戒めになったと思う。あれが無ければ今頃はアダマンタイト級冒険者以上の強さを手に入れたことで、有頂天になっていたかもしれない。いつ、いかなる時も油断しない。それを強く意識しなければ。
そう思い定めれば、自分の強さなど大したことが無いのだと思えるようになった。今の俺の強さならローゼリア様の本体ともいい勝負が出来るだろうが、アーロン様には勝てるビジョンが一切浮かばない。
俺の攻撃が届く範囲にまで近づくことが出来るかどうかすらも怪しい所だろう。彼と戦いが始まった瞬間、自分が消し炭になる未来を容易に想像できてしまう。
「そう言えば、ドヴェル共和国の冒険者ギルドで俺…ジャイアント・フロッグに関する情報とか出回っていなかったのか?」
「勿論あったぞ。討伐依頼が入っていたな。ただ、この国に拠点を構える冒険者のバラビア王国に対する心象は最悪だからな。隣国とは言え、助けに行こうとする冒険者は皆無だったな」
確かにバラビア王国からの侵攻が始まれば冒険者稼業にも小さくない影響が出る。それを思えば戦争なんて無い方がいいとみんなが思っているはずだ。むしろそんな国なら滅んだ方がいい…すべてではないだろうが、多くの冒険者がそう思っていてもおかしくはない。
付け加えるなら、この国の冒険者のほとんどはドワーフを始めとした亜人がほとんどを占めており、仮に討伐の為に隣国に行ったとしても歓迎されるかどうかも怪しい所だ。下手したら討伐依頼どころの話ではなくなってしまうだろう。そんな国に進んでいきたいと思う亜人の冒険者がいるとは考えにくい。
「グレイグ将軍とはお会いになったのか?」
「いや、これからだ。何でも『隣国に出現した魔物に関する会議』なる催しがあるから、少し遅れるとのことだったからな」
「隣国に出現した魔物って…ゼロの事だよな?」
「俺以外にいるわけが無いだろ。その『魔物』がこの国に侵攻してくるはずがないことをグレイグ将軍は重々承知しているが、その会議には彼の腹心以外にも多くの関係者が出席することになっている。その中には当然、モルガナ商会の関係者もいるからな」
「なるほど。つまり表向きだけでも、謎の魔物に対する対策会議を開いておかなければならないと言うわけか」
「御名答。まぁ、グレイグ将軍からすれば退屈この上ない会議になるだろうな。それでも神妙な顔つきで会議には挑まなくてはいけない。多分…いや、かなりの苦行になるだろう」
「ふふっ…違いない。どれ、休憩もそろそろいいだろう。もう一本付き合ってくれないか?」
「望むところだ」
結局グレイグ将軍の準備が整うまでにかなりの時間が経過してしまい、俺との会談は翌日に持ち越すことになった。レオンとの模擬戦に十分すぎるほどの時間を確保できたため、それはそれでよかったと思う。




