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王城内部を蹂躙しながら、城の奥に逃げ込んでいた民衆やら金持ちの商人、貴族などを見つけ次第始末していく。絨毯のシミに変化していく人々を見て、死んでしまえば金持ちも貧乏人も、ましてや貴族と貧民さえも違いは無いのだと改めて実感させられる。
内部の散策の途中、宝物庫らしき場所を見つけた。困窮していたとはいえ一国の宝物庫。何か目を見張るような宝物が納められているかもしれないと、期待に胸を膨らませ覗いてみると空っぽ…とまではいかないが、かなり空きの目立つ寂しい有様であった。
恐らく逃げた王族がマジックバックか何かに詰めて持ち出したのだろう。王都周辺での示威行為をそれなりに長い期間していたからな。逃げ出す準備をするだけの時間は十分すぎるほどに有ったという事だ。
負け惜しみにはなるかもしれないが、こうなるかもしれないと予想は十分にできていたのでそれほど期待していたというわけではない。ざっと見渡して現金化しやすそうなものをいくつか頂戴しておいた。せっかく探し出したので、何も盗らずに帰るのは少しばかりもったいないと思ってしまったのだ。こういった貧乏性は抜けそうにない。
散発的にではあるが、俺に挑んできていた兵士やら冒険者はほとんど見かけなくなっていた。それなりの数を殺したという理由もあるだろうが、生き残った戦う力を持つ者達は俺に敵わないと見て民衆を見捨て王城を脱出していたのだ。索敵によりその動きを察知していたが見逃してやった。
追いかけるのが面倒という思いもあったが、一番の目的は俺の情報を持って隣国に行ってもらうことだ。恐らく情報が行ったその国では俺に対する防衛網を構築するはずだ。
しかし、そもそもこの場所にジャイアント・フロッグ(本物)はいない。俺が擬態を解き姿を消せば、周辺の国々は混乱するはずだ。体長4メートルを超える巨大な魔物が急に姿を消したのだから。
発見し、討伐したという情報が出るまでは構築した防衛網を解除するわけにもいかないだろう。その間も当然、防衛費用は発生することになる。国庫からすれば微々たる出費ではあろうが、近隣の住民はしばらくは不安な日々を過ごすことになるだろう。それが国政にどう影響するかは分からないが、良くなるという事は絶対にないはずだ。そしてその負の感情が大きくなれば大きくなるだけドワーフの国に構うだけの余裕はなくなるはずだ。
さて、王城内部の蹂躙は粗方終わらせたし、そろそろお暇させてもらおうか。王城の主人に許可をもらいたい所だが、残念ながらその願いは叶いそうにない。全く、客人を持て成さない主なんて不躾もいいところだ。せめてもの別れの挨拶として、残った魔力の大部分を消費し大量の『毒ガス』を生成、散布した。
これで仮に隠し部屋などがあったとしても、そこに隠れている人間も殺せるはずだ。
王城から出ると、王都は俺が来た時とは違い静寂とまではいかないが静かなものであった。物音を立てる人間の数が減っているからだろう。近くで倒れ伏し、小さなうめき声をあげている人間の声ですら聞き取ることが出来るほどに、だ。
あらかじめ目星をつけていた冒険者やらマジックキャスターの遺体は俺が頂くとして、王城の周りを覆い尽くすほどの民衆の遺体は眷属達に分け与えることにしよう。
しかし遺体が大量にあるとはいえ、王都に『魔物』であるスライムが侵入すれば、生き残った王都住民に討伐されやしないかと言う不安もある。
遺体が原因となって発生する病もあるため遺体を処分する手間が省けたと歓迎されるかもしれないが、知人や家族の遺体を目の前で吸収されてしまえば、例えスライムと言えども殺意を向けられてしまうかもしれない。常に周りの様子を窺いながら吸収するように眷属には伝えておこう。
とりあえずこの国でやるべきことは完了した。後はドヴェル共和国に戻り、彼の国を蝕む悪漢どもを成敗すればアーロン様との契約は見事達成されるというわけだ。
隣国でこのような大惨事が発生したのだ、『教会』につながりのある奴らは何らかの行動を起こすはずだし、予定にない行動を起こせばそこに隙が生じるだろう。そこに上手く付け込むことが出来れば、必ず成果は出るはずだ。
王都から十分離れた人気のない場所で人間の姿に擬態する。道中、襲撃していった都市の現状も確認することにしよう。ないとは思うが、何か見落としがあるかもしれないからな。最後まで油断はしてはいけないのだ。




