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 王城を攻撃している民衆がついに兵士達の守りを突破し、城の中へ堰を切ったように流れ込んでいった。城の外より城の中、城の中より城の奥。より安全な場所を求め、民衆は留まることなく奥へ奥へと入っていく。


 王城を守る兵士はこれを阻止することが出来ずにいた。民衆の勢いが強まったとき、その勢いを殺すためマジックキャスターはついに民間人に向かって魔法を発動したが、魔法と言えど万能の力ではない。万を超える民衆の前では、その力は脆弱であった。


 しかし、わずかでもその勢いを止めることに成功したのは事実だ。そこでその勢いを殺すことが出来れば状況も変わったかもしれないが、それを黙って見過ごす俺ではない。


 『支配』した人間に持たせておいた、爆発する魔道具を王城を取り囲む堅牢な城壁に向かって使用させたのだ。『支配』した人間も爆発に巻き込まれてしまったが、王城の壁に大きな穴を開くことには成功した。


 それを見た民衆は勢いを取り戻し、その穴に向けて我先にと入っていく。矢や魔法による牽制はその勢いを止めることはついには叶わず、王城を守る兵士は民衆の勢いに膝を屈せざるを得なかったのだ。


 現在、王城は混乱の最中にある。民衆の願いが自分達の命が助かりたい、その一心であるなら一致団結し俺に立ち向かうという可能性もあったかもしれない。だが、民衆の中には混乱に乗じて城に眠る金目の物を簒奪したいとか、そういった邪な思いを持つ者達も当然ながらいる。


 纏まりのない民衆が急に押し寄せて来た王城は現在、交渉によって混乱を解決しようとする兵士、民衆を殺してでもこの混乱を治めようとする過激な思考を持つ兵士、どちらの立場になって行動していいのか分からない冒険者や魔法士ギルドの職員、そしてまとまりのなくなってしまった民衆の入り乱れる、まさにカオスな状況になっていた。


 もう十分だろう。こんな状況になってしまえば、仮に俺が王城に攻め込んだとしても皆が協力して問題(俺)に当たるなんて不可能だ。恐らくは混戦になる。そうなれば周りに一切気を配る必要のない俺が有利だ。その準備として、周りの死体を吸収して魔力を回復する。それが終われば俺も王城に攻め込むとしよう。




 「ま、魔物が来たぞ!」


 「早く王城の中に逃げ込め!前の奴は何をのんびりしているんだ!もういい!みんな押せ!押し込んで城の中に入るぞ!」


「ばっ…馬鹿、やめろ!こっちもつっかえてんだ!押されても進まねぇんだよ!」


 と言った感じで王城の前は絶賛混乱中。マジックキャスターはおろか、城を守る兵士の姿も見当たらない。騒ぎを治めようとして逆に民衆に踏み殺されたのか、それとも持ち場を離れてでもやらなければならない事でもあったのか。


 正直どちらでもいい。民衆を踏みにじりながら王城の中へと進み、冒険者やマジックキャスターの姿を探す。当然その間も『毒ガス』の生成は続けているので、俺が去ったことで安堵していた民衆も漏れなく俺の経験値と化していった。


 さて、目当ての奴らは…っと、見つけた。冒険者とマジックキャスターと思われる一団だ。俺を討伐してくれると期待する民衆が彼らを取り囲んでいる。彼らの近くにいれば安全だと判断しているのかもしれない。しかしそれは愚策だ。人垣が邪魔となってしまい、冒険者達の行動を妨げていたのだ。


 おまけにこの騒ぎに巻き込まれたことにより少なくない体力を削られてもいた。一息にジャンプして彼らの頭上へと移動し、その一団を纏めて押しつぶす。冒険者たちは、民衆が邪魔となって上手く躱すことが出来なかったのだ。


 やはり民衆を王城に攻め込ませたのは正解だったな。おかげでかなり楽が出来ている。このまま攻略を…そう思ったが、この国の精鋭兵が姿を現さないことに疑問を抱いた。


 索敵を開始する…王城から少し離れた場所にそれらしき一団の反応を発見。まさか…すれ違った?いや、それは無いはずだ。となると、この王城にも緊急時の抜け道があったという事か。


 その道を使って、王族が精鋭兵に身を守らせながら逃走しているという事か。彼らを逃がすのは経験値的に少々もったいないが、この場を離れるわけにもいかないし、今から追いかけて殺すのも難しいだろう。口惜しいが諦めるしかなさそうだ。


 まぁ、第一の目的はこの国に壊滅的な被害を与えてドヴェル共和国に数年間の平穏をもたらすことだ。例え王族と精鋭兵が生きていたとしても、復興が劇的に早まるわけでもない。頭脳である王が生きていても、その手足である国民の多くがその命を落としているからだ。


 それに王族が民衆を見捨てて逃げたという情報が洩れでもすれば、王が民衆によって殺されるかもしれない。そうなれば、復興どころの話ではなくなってしまうだろう。


 逃げた者は諦め、残った者で我慢するか。幸い数はかなりいる。それなりの量の経験値にはなるはずだ。

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