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『支配』した人間の働きもあって、現在王城は多くの民衆に攻め込まれていた。王城を守る兵士も流石に自国の民を殺すことに戸惑いがあるのだろう、防衛はあまり上手くいっていない様子だ。
俺はそんな民衆を影ながら?支援するため、王城方面に逃げる民衆は見逃すことにしている。そちらの方面に逃げた民衆は、王城を攻撃している民衆と合流し彼らの良き協力者となってくれるはずだ。
当面の間は彼らに王城の攻略を任せ、俺は王都侵略に全力を尽くすことにしよう。このまま民衆が王城を攻略するもよし、王城を守る兵士達が民衆を返り討ちにするもよし。両者がぶつかり、疲弊したタイミングで俺も王城の方に向かう。そうすれば、大分楽に攻略が出来るはずだ。
そんな感じで王城方面は今のところ不干渉貫き王都を攻略していっている俺だが、やはりと言うべきか、家の中に閉じこもっている住民が意外にも多い。悲しいことに、効率的に経験値を稼ぐことが出来ていないのが実情だ。
少し前に実験した結果、『ファイヤー・ボール』によって発生した炎から燃え移った炎で焼け死んだ人間からでも経験値を獲得できると判明したが、火打ち石などで着火した炎が燃え移った炎で焼け死んだ人間からは、経験値が獲得できないということが分かった。
この両者の違いは何だろうか。単純に考えれば前者の炎は俺の魔力によって生じたものであるが、後者はそうではない。つまり経験値を獲得するには魔力が関係しているのでは?という仮説を立てた。
しかし、魔力に頼らない投石などで人を殺してもちゃんと経験値を得ることが出来るが、『ファイヤー・ボール』で岩盤を破壊し、それによって生じた落石などを利用して人を殺しても経験値は得られなかった。
その辺りの線引きが依然として不明である。もちろん直接殺せば問題なく経験値は獲得できるのでさしあたっての問題は無いが、気になるものは気になるのだ。そこに自身を大きく強化するためのヒントがあるかもしれないのだから!……いや、多分ないな。判明したとしても、自己満足にしか過ぎないだろう。
…ふぅ、少し考えに耽ってしまった。俺の脅威となる人間がこの辺りには居ないのは間違いないが油断は禁物。以前の戦闘のように魔道具を持った人間が特攻を仕掛けてくるかもしれないのだから。
とりあえず、周りにいる人間を始末することにしよう。先に『効率的に経験値を稼ぐことが出来ない』と言ったが、正確に言うとそれは誤りだ。俺は成長する生き物だ。すでに家屋に立てこもっている人間を屠る方法を見出していた。ただ、魔力の消費量が多いため『効率的』ではないというのが正しい表現だ。それでも、1軒1軒家屋を破壊し、中にいる人間を殺すよりは遥かに楽ではある。
俺は能力を使って『毒ガス』を生成、周囲一帯に散布した。
これは俺が町の中に隠れ潜む人間を一層する方法を眷属に相談したときに出た答えの一つだった。発案者は当然ながら『ポイズン・スライム』。自分の能力を上手いこと使えば空気中に『毒』を散布して、弱い人間なら簡単に殺すことが出来るかもしれないと提案されたのだ。
ポイズン・スライムの能力にそれほど習熟していない俺は、ポイズン・スライムにアドバイスをもらいながらなんとかこの『毒ガス』を生成させることに成功し、こうして使用できるまでに至ったのだ。
魔力が高い人間、つまり冒険者やマジックキャスターにはほとんど効果が無いが、位階の上げていない一般人はこの程度の弱い毒でも十分殺すことが出来る。
ちなみに俺にアドバイスをしてくれたポイズン・スライムは、この能力を高めることで唯一無二の『ポイズン・ガス・スライム』に進化すると目標を立てていた。上手くいくかは分からないが、初めから失敗すると決めつけるのは良くないのでとりあえず応援しておいた。
念話が切れる間際、『これで俺のアイデンティティが確立される…いや、させて見せる!』と随分と気合が入っていた様子だったので、案外うまくいきそうな気がした。彼の頑張りに期待することにしよう。
そこで疑問に思ったのが、彼が無事『ポイズン・ガス・スライム』に進化した場合、彼の眷属である『ポイズン・スライム』は『ポイズン・ガス・スライム』にしか進化しないのか、それとも『ヴェノム・スライム』にも進化するのか、である。
本体である俺や眷属が成長すればするほど、色々と成長の幅が増えるためかこういった疑問が尽きないのである。もちろん自身の強化につながるのならあらゆる手段を講じる必要があるのは理解している。
…ま、今考えても栓無き事だ。今は王都攻略に集中しよう。『毒ガス』の弱点として風向きによってあまり効果が無い場合もあるが、この時間帯に王都に強い風が吹くことは無い。安心して能力を行使できる。一応、王城方面に『毒ガス』がいかないように配慮をしておくか。せっかく誘導した民衆を殺すのはもったいないのだから。
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