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 「止まれ!止まらんと撃つぞ!」


 「お、俺達は善良な一般市民だぞ!もうすぐそこまであの魔物が来てるんだ!頼む!俺達も王城の中に入れてくれ!」


 「ダメに決まっているだろ!王城は例の魔物を倒すための、特殊な魔法を発動させるための準備に入っている!如何なるものも立ち入り禁止だ!」


 「だったら何で金持ちや冒険者は王城の中にいるんだ!あんたのその理屈じゃ説明がつかないぞ!」


 「な…なんで貴様がそんなことを知っている!」


 何で俺がそんなことを知っているのか…それは俺自身にも分からない。しかし俺は間違いなくその事実を知っているし、そこに疑問を挟む余地などは一切無いということを理解している。


 それにしても、何故俺は民衆の前に立ち、彼らの代表の様な立ち振る舞いが出来るのだろうか。俺は地味で臆病な性格の持ち主であり、人の前に立って、積極的に行動するなんてできなかったはずだ。それがどう言うわけか、今はこうして王城を守る兵士たちを前に堂々と自分の意見を言うことが出来る。


 きっかけがあるとすれば、それは間違いなく数カ月前、俺が住んでいた都市が巨大なカエルの様な見た目の魔物に襲撃され、壊滅してしまった事だろう。


 その時の俺は恐怖のあまり腰を抜かしてしまい動けずにいた。そこにカエルの様な魔物が目の前に現れて、あまりの怖さに気を失っていた。死んだと思っていたが意外にもこうしてちゃんと生きていたのは、日頃の行いの良さなのか、それとも俺の様な人間は殺す価値などないと判断しての事なのか。


 理由はどうあれ、俺はこうして生き残ることが出来た。その後導かれるように王都に来て生活するようになった。そこで俺は、俺達流民たちの扱いの悪さに憤慨することになった。魔物によってすべてを奪われた俺達に王都の住民は優しい言葉を投げかけてくれるでもなく、汚物を扱うような態度で接してきたのからだ。


 そんな環境を変えたくて俺は声をあげた。俺達流民もちゃんとした生活が送れるようにしてくれと。こんな行動をとれたことを誰でもない、俺自身が一番驚いていたほどだ。しかし自分を突き動かす謎の力によって、それを抑えることが出来なかったのだ。


 最初のころは俺の行動にある程度の興味は示すものの、協力してくれるような仲間は現れなかった。それどころか王都の治安を乱すとして憲兵に捕まったこともあったぐらいだ。それでも諦めず毎日活動していると、仲間が1人ずつ増えていき、いつしか大きな声に変えることが出来たのだ。


 その頃には俺達を力で抑え込むのは困難であると判断したのだろう、体制側からいくつかの譲歩と支援を受けられるようになった。これで少しは俺達の生活は楽になる。そう安堵する気持ちもあったが、これだけじゃ足りない、俺達は被害者なのだから、もっと多くの支援を受ける権利があるはずだと思う気持ちもあった。


 最終的には後者の気持ちが勝り、俺達は活動をよりエスカレートするようになった。だが絶対に暴力は振るわない。暴力をふるえば、体制側に大義名分を与えることになる。そうなってしまえばこれまでの努力が水の泡となってしまう。


 非暴力を貫いて、殺されてしまうかもしれないと考えたことは一度や二度ではない。しかしたとえ俺が殺されたとしても、『絶対に成し遂げなければならないことがある』そんな、脅迫概念にも似た思いが俺の心をずっと『支配』していたのだ。


 そして今もその『支配』が俺を突き動かし俺を王城へといざなった。俺に続くのはもはやかつての流民だけではない。王都の住民も巻き込んで、王城の前へと襲来しているのだ。そして王城を守る兵士から静止を呼びかけられているが、そんな命令など屁とも思わない。皆を引き連れて、一歩ずつ確実に王城へと近づいていく。


 「ぐっ…仕方ない。弓兵、あいつを殺せ!」


 「で…ですが彼は武器を持たない一般市民ですよ。そんな市民を殺すなんて…」


 「儂の命令が聞けんというのか!もういい!儂がやる!」


 そう言って指揮官らしき人物が弓を構え…俺の胸に矢が深く突き刺さる。周りでは本当に矢を放ったことに対する動揺が広がっていた。


 「市民を守る兵士が役に立たないんじゃどうしようもない!自分たちの身は自分で守るしかない!みんな武器をとれ!」


 「自分たちの身を守るってどうするんだ!」


 「決まってんだろ!ここにいたらどの道死んじまうんだ!魔物に殺されるか、兵士に殺されるかだ!だったら俺は王城の中に逃げ込んでやる!城を守る兵士がなんだ!あの魔物に比べたら大したことはない!」


 彼は確か…俺の活動にかなり早い段階から協力してくれた人だ。大変なことも進んで協力してくれて、どこか自分と似たような雰囲気を漂わせた人だった。多分彼なら俺の遺志を継いで行動してくれるだろうという謎の確信がある。


 矢に貫かれて痛いはずなのに、俺は自分の役目をしっかりと果すことが出来たことに深い満足感を味わっていた。

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