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 警鐘が鳴り響く音が聞こえる。当初は王都の城壁まではスライム形態で接近して、警備兵が気づくギリギリのタイミングまで存在を察知されないようにしようとも思っていた。しかし警備兵に警鐘を鳴らさせることで、王都の住民を混乱に陥れるほうが良いと判断して敢えてジャイアント・フロッグ形態で、見つかる様に堂々と接近した。


 そのタイミングで『支配』した人間を使い、王都内部で動乱を引き起こす。動機は何でもいい。重要なのは住民の不安を煽ること。こういった緊急時では『無辜の民』というのが一番質が悪い。


 本人には悪意が無く、治安を守る衛兵の邪魔をするからだ。流石に衛兵も仕事の邪魔になるからといって罪のない市民を罰するわけにもいかない。しかし放っておくと、不安が不安を呼び、より大きな騒動へと発展してしまう。これを鎮圧するのは並大抵の事ではない。


 そちらにも人手をとられてしまう事を考えれば、むしろ悪意を持って混乱を起こそうとする市民の方が扱いが楽であろう。捕縛して、牢に繋ぐだけでよいのだから。


 そうして始まった『支配』した人間による騒動は、衛兵によって収まることはなく確実にその勢いを大きくしていった。


 俺が城壁に近づくにつれ矢や投石が飛んでくるようになった。その中に俺に少なくないダメージを与えた爆発する魔道具は含まれてはいなかった。この魔道具の詳細が知りたくてグレイグ将軍に聞いてみた所、この辺りではそう珍しい魔道具ではないとのことで詳しい話を聞くことが出来た。


 曰く取り扱いが非常に難しく、知識のない者が下手に扱ってしまうと少しの衝撃で暴発する危険もある事。曰く誘爆する危険もあり、使用する際は魔道具どうし離れて保管すること。曰くそもそもこの『バラビア王国』の爆発する魔道具は性能が低く、爆発しない可能性もあるとのこと、と言った具合だ。


 聞けば聞くほど、戦いで使用することが困難であるように思える不完全な魔道具であった。元は鉱山で使用するために開発されたのだそうだ。動かない岩盤相手ならその程度の性能でも十分であったのだろう。性能に不安の残るそれを俺に対して投入してきたという事は、この国にとってジャイアント・フロッグがいかに脅威であったかということであろう。藁にも縋る思いであったという事だ。


 確かに瞬間的な火力で言えばマジックキャスターの放つ魔法を上回っており、連続で使用されていれば今の俺ですら倒すことが出来たかもしれないほどの威力を持っていた。


 かつてはドヴェル共和国の城攻めにも使用されていたそうだが、城壁の上からだとその魔道具を持っているか否かの判別が容易らしく、魔道具を持っている兵士を優先的に狙うことで被害を防ぐことが出来ていたのだそうだ。そのため、近年の城攻めでは使用されなくなった…とのことだった。


 それを俺に使用してきたという事は自爆前提の特攻であったからであろう。とは言え相手が俺よりもはるかに弱く、その心の油断を突かれてしまったのは事実だ。余裕のあったあの時点でこの魔道具の存在を知ることが出来たことを良かったと思うことにした。


 そんなわけで取り扱いの難しい爆発の魔道具でもなければ、俺にダメージを与えることは出来ない。つまり俺の接近を止める術はないという事だ。更に近づけばマジックキャスターから魔法が飛んでくるだろうが、大事な魔力は出来るだけ保存しておきたいだろうからな、余程近づかなければ魔法は飛んではこないだろう。飛んでくれば儲けもの、再び距離をとって魔力が尽きるまで牽制し続けるつもりだ。その間にも『支配』した人間を使って動乱を大きくすることも出来る。


 そうやって距離を測りつつ、魔法が飛んでこないギリギリのラインで接近することをやめる。城壁にいる兵士は「なぜ、そんな所で立ち止まる?」そんな疑問を抱いていることだろう。当然何の考えもなくそこで立ち止まったわけではない。


 口の中から…いや、正確に言うなら口の中に入れておいたマジックバックの中から爆発する魔道具を取り出す。流石に、いつ爆発するかもわからない魔道具を直接口の中に収容するのは嫌だからな。ただ、少し離れた位置からそれを見ている兵士からは口の中から取り出したように見えたことだろう。


 それを兵士たちに圧をかけるように、見せつけるようにゆっくりと取り出し…それを城壁に向かって投げつける。人間の膂力では到底できない芸当だ。全力で投げたその一投は短い滞空時間の後に城壁に着弾、即座に起爆し小さくない破壊をもたらす。


 まさか魔物が人間の作り出した魔道具を使って攻撃してくるとは思ってもいなかったのだろう。俺の投げた魔道具を打ち落とす…のは不可能であろうが、俺が手に持った時点で矢を射かけていれば、もしかしたら魔道具に当たり起爆していたかもしれないな。今となってはどうしようもない事ではあるが。


 兵士たちの混乱を横目に次の魔道具を取り出し次から次へと投擲する。結局投じた魔道具のうち6割ほどがちゃんと起爆し城壁の1部を完全に破壊しつくしてくれた。これならその穴から問題なく王都に侵入することが出来るだろう。


 ちなみに王都内部では『支配』した人間が素晴らしい働きを見せてくれている。先ほどの魔道具の爆発音も彼の働きの良いアシストになったようだ。多くの兵士が混乱の鎮圧に動いているが全然上手くいっていない。


 この調子なら王都を陥落することも容易だろう。いや、その油断がいけないのだ。気を引き締めて王都の内部へと侵攻した。

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