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 王都近郊にある都市や街を破壊しつくし、『支配』した人間の目を通してみた王都内部は目的通り各地からの流民で溢れかえっていた。大通りにはもちろん、王都のスラム街や平民の住む住宅街にも路上生活者は増え、日々犯罪の絶えないカオスな空間と化していた。


 それもそのはずだ。流民が王都に流れ始めた頃は王都では快く受け入れていた王都の住民だったが、その数増え始め自分たちの生活まで圧迫し始めてしまえば仕方のない事であった。


 もちろん流民たちにも言い分はある。王都の住民とは違い、命からがら王都まで逃げて来たのだ。着の身着のままで逃げてきたため、当然金目の物などほとんどない。置かれた状況は王都の住民よりも遥かに悲惨だ。


 住む家を奪われ、資産を奪われ、仕事を奪われ、家族や友人も失った。それでも何とか王都まで逃げてきたというのに、王都の住民は被害者である自分たちになんて冷たいんだ。王都の住民は、まだ何も奪われてはいない自分たちより遥かに恵まれた者たちだ。何故こんなにも恵まれている存在から、これほど冷たい扱いを受けなければならないのか、と。


 そうして生まれた軋轢は、簡単に埋まるものでもない。原因である魔物が王都の外で元気に生存していることを踏まえて考えれば、むしろその軋轢は徐々に深まっているとも言えた。


 バラビア王国の国王は何とかこの軋轢を解消しようとしていた。まずは食料の面から始めた。国の食糧庫を解放し、流民たちに提供した。しかしそれほど豊かでないこの国に、大量の流民を長い間食べさせていく蓄えなどあるはずもない。


 初めこそ毎日のように行っていた炊き出しも、数日に1度になり、数週間に1度となり、最終的には炊き出しそのものが行われなくなってしまった。


 人は食べなければ生きていけない。しかし流民には食べ物を買うお金なんて持ってはいない。そうなればそうなるか、簡単だ。ある所から奪うのだ。もちろん、その選択をとったのはほんの一握りの人間であった。


 しかし王都の住民には『流民が盗みを働いた』と言う情報が広がる。そうなれば、『盗みを働いた流民』にのみ憎しみが向くのでは無い。『流民』すべてに対して憎しみが向いてしまうのは仕方のない事であろう。王都住民からすれば、どの『流民』が盗みを働いたかなんて分かるはずもないのだから。


 それを知った流民たちはどう思うだろうか。それまで勤勉に生きて来た人間であっても、真面目に生きるのが馬鹿らしくなるのではないだろうか。何も悪いことをしていなくても、犯罪者の様な扱いをされるのだから。


 そうして日々悪化していく王都の治安を王はどうすることも出来ずにいた。


 それを解決する方法は簡単だ。すべての元凶である俺を殺せばよいのだ。しかしそれが出来れば苦労はしない。精鋭兵総勢2,000人のうち半数の1,000人もの大軍を派遣した討伐軍も、その約8割が殺されてしまった。敵戦力(俺)の底が見えない現段階で、再び派兵するという選択肢を取ることは難しいだろう。下手をすれば犬死になってしまうのだから。


 それに残りの精鋭を派遣すれば、今度は王都を守る精鋭兵がいなくなってしまう。国の精鋭が返り討ちにあったのだ、一般兵では幾らいても安心する事は出来ないはずだからな。精鋭を派遣しているスキに王都に攻撃されでもしたら、それこそ目も当てられない結果しか待っていない。


 バラビア王国単体での解決は不可能だ、ならば他国に支援を求めるのはどうだ、次はそう考えたようだ。足の速い兵士に他国に支援を要請する密書を持たせ派遣していた。当然これを、他国に行かれる前に俺が殺した。


 ただこれは、俺から言わせれば仮に他国に援軍を乞う伝達をしても、果たして援軍に来てくれたのか?という疑問もある。


 乞われた側からすればたった1体の魔物に国が滅ぼされかけているのだ、そんな国に援助をしても果たして見返りがあるのか?そう考えてもおかしくはない。少し前なら定期的にドワーフの捕虜を捕らえて売ってくれていたが、最近は捕虜となるドワーフはいない。国同士の関係だ、何の見返りなくバラビア王国の支援をすることは無いはずだ。


 俺だったらバラビア王国の混乱に付け込んで、隣接するバラビア王国の領地を接収するな。警備は手薄だろうから、簡単に出来るはずだ。その領地を謎の魔物に対する盾とすることも出来るし、もしかしたら攻め込んでくるかもしれないドワーフ達に対する前線基地にすることも出来る。


 仮に魔物(俺)の問題がすぐに解決しバラビア王国に『返せ』と言われても、『支援した金の利息』とでもいえば、強硬姿勢に出ることは出来なくなるだろう。当然ながら武力による奪還は謎の魔物(俺)によって大打撃を受けたこの国には不可能だしな。


 援軍を期待できない籠城戦はどうなるだろうか。当然兵の士気は下がりっぱなしだ、上がることは決してない。加えてジャイアント・フロッグが城の外で毎夜のようにゲロゲロと鳴いて日々プレッシャーを与えている。


 そんな生活を数カ月送ってきたわけだが、グレイグ将軍から念話が届いた。何でも例年通り兵糧が尽きたのでバラビア王国の侵攻部隊が国に帰る準備を始めたとのことだった。1カ月もすればこちらに帰ってくるだろう。そうなってしまえば数の不利から形成が逆転してしまうかもしれない。多分ないと思うけど。


 仕方ない。いや、ここまでやれば十分だろう。そろそろ王都に侵攻しようか。

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