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「やった……やったぞ!ついにあの魔物を倒すことが出来たんだ!」
「落ち着け!あれだけの爆発に巻き込まれて無事ではいないだろうが、用心は必要だ。追加の魔道具の発動の準備をしろ。念入りに打ち砕くぞ」
「了解です!……?何だ、このスライム……って、ぅお!何でスライムが襲ってくるんだ!?」
「うごぉぉぉぉっ、く、口の中に、入って、きて…隊長!たす…け…」
「ぐ…何なんだ、このスライムは!……ってちょっと待て!お前、それは魔道具の起爆…」
1人兵士が突然スライムに襲われたことに動揺し、誤って魔道具を起爆させてしまった。そしてその魔道具が起爆すると同時に周りの魔道具にも誘爆し、兵士のいた近くは爆炎に飲み込まれる。そして残念ながら何体かの眷属もその爆発に巻き込まれてしまった。
『大丈夫ですか、ボス』
『何とかな。爆発する直前に全魔力を練り上げて、体を硬化させていなかったら危なかったかもしれない。と言っても、完全には防ぎきることは出来なかったからな。スライム細胞も大分数を減らされてしまった。あの状態で追撃があれば、本当に危なかったかもしれない』
『念のため近くで待機していた眷属の援護が間にあって良かったです』
『全くだ。だが…俺の身を守るために尊い犠牲が…』
と、念話で送ったところ『勝手に殺すな!』と言った感じの思念が伝わってきた。なるほど、肉体が消滅した状態でも、意識を集中すれば簡単な意思の疎通が出来るのだろう。今回は眷属に助けられた、彼らに早く新しい肉体を用意してやらなければ。
野良のスライムを見つけてくるようにと手の空いた眷属に伝え、俺は兵士たちの構えた陣に戻ることにした。俺が一通り暴れたことで完ぺきとはいいがたい状態ではあるが、何もない場所よりは遥かに安心して休むことが出来る。
陣の中には俺が殺した大量の兵士の死体がある。それを吸収するために、結構な数の眷属が陣の中をせわしなく移動している。俺はそんな眷属を横目に、ひときわ大きな、この場の指揮官が使用していたテントの中に入る。
『それで、どうします?』
『油断大敵…意識していたつもりだったんだがな。ここまでうまくいっていたことで、知らず知らずのうちに油断してしまっていたようだ。とりあえず、今日は1日スライム細胞の数を戻すために休息することにする』
『分かりました…ですが、惜しいですね。王都方面に逃げた兵士、延べ94名。経験値に換算すると、何体かの眷属は進化することが出来たでしょうね』
『まぁな。だが本体である俺がこんな調子じゃ追撃も難しいからな。まぁ、今の状態で戦って負けることもないとは思うが…その油断が今回の件に繋がったんだからな』
『ええ、王都から兵士らを助けるための援軍を派遣される可能性も否定できませんからね。では、何かあれば呼んでください。私も新鮮な兵士の死体を頂きに行かせてもらいますので…っと、マジックキャスターの死体はどうしますか?ボスが吸収するのでしたら、ここまでお持ちしましょうか?』
『いや、爆発で消し飛んだ眷属達にやろうと思ってる。奴らの体を取り戻させるために野良のスライムを捕獲しに向かわせているが…もう少し時間がかかりそうだな。適当に一か所にまとめて置いておいてくれ』
眷属との会話を終え、テント内のベッドの上に寝転がる。清潔で肌触りの良い高価なシーツが敷かれている。この国の国民は困窮に喘いでいるというのにな、前線の指揮官がこんな贅沢を許されてもいいのか?という疑問を抱く。まぁ、俺には関係のない話だ。
今回の襲撃で逃げ延びた兵士の数はざっと200名ぐらいだ。王都方面に逃げたのが94名で残りは反対方面、もしくは森の中に逃げ込んでいた。森の中は危険ではあるが俺が巨体であるため、その追撃を逃れるためであるならその考えが愚かだとは思わない。
しかし森の中には魔物がいるし、俺の眷属もいる。無事に森を抜け出すことの兵士がどれほどいるだろうか。実際、すでに俺の眷属の奇襲によって何人かの兵士を仕留めることが出来た。これからもっとその数が増えるだろう。
王都と反対の方面に逃げた兵士たちはどうだろうか。俺が破壊した都市や街もあるが、俺が襲撃していない無事な都市や街も当然ながらある。そこに逃げこめば、当面の安全は保障されるだろう。
やはり王都を攻撃する前に、近隣の都市や街を攻撃した方が良いだろうか。悩むな…そんなことを考えていると、眷属から野良のスライムを捕獲してきたとの念話が入る。
考えることを中断し、眷属の復活を優先する。命…ではなく身体を犠牲にして俺を助けたのだ、そんな彼らの功績を讃えないという考えは存在しないのだ。




