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 マジックキャスターを全員始末し終えた頃には、すでに兵士たちの戦闘意欲は皆無に等しかった。指揮官も必死に周りを鼓舞しているがあまり効果があるようには見えない。指揮官自身も絶望的な状況に心が折れかかっているみたいだし、仕方ないことだろう。


 しかし、俺が一方的に有利であるこの状況はあまりよろしくは無い。散り散りとなって逃げだされてしまえば、それを追うのが面倒であるからだ。


 ここらで一つ、演技でもしよう。もう少しで俺を倒すことが出来る、そう思わせるための演技だ。兵士が突き立てた槍を、体表を柔らかくすることで俺の体に深く突き刺さったように見せた。


 「見ろ!奴とて無敵ではない!恐らく今までの攻撃で少なからず奴にダメージを与えることは出来ていたのだ!今まではそれが目に見える形で現れなかっただけ、つまりこのまま攻撃し続ければきっと奴を倒すことが出来るのだ!」


 兵士たちの目にわずかに力が戻り始めた。良い傾向だ、立て続けに突き出された槍をこの身で受け、あたかもダメージを受けたかのようによろけて見せて、更に突き出された槍を嫌がる様に大きく距離をとる。


 その際に、さりげなく舌による攻撃を加え何人か倒したが、怯えることなく突っ込んでくる兵士もいた。こうした、積極的に俺を倒そうとする兵士は最後まで取っておくことにする。彼らが戦う意思を見せる限り、他の兵士も撤退しにくくなるだろう。


 その後もお世辞にも上手いとはいいがたい演技を挟みつつ戦い、更に百人ぐらいの兵士を倒した辺りで流石におかしいと判断したのだろう。俺と距離をとり、攻撃よりも防御に重点を置いた姿勢をとる兵士が現れ始めた。


 「ええい!何故、攻撃をせんのか!奴を見ろ!全身槍に貫かれ、ボロボロではないか!」


 指揮官はそう主張しているが、補佐の兵士は反対意見の様だ。


 「落ち着いて下さい。あいつ、絶対普通の魔物ではありませんよ。ここは一度撤退して、作戦を練り直しましょう。このままでは、いたずらに兵を損耗するだけになってしまいます!」


 「ふざけるな!ここまで来て撤退だと?いったいどれほどの兵士が犠牲になったと思っているんだ!弱っている奴を、今、ここで倒しておかんと!より大きな障害になって、より大きな被害が出るかもしれんのだぞ!貴様にその責任が取れるのか!?」


 責任、か。なるほど、あの指揮官は自分がこの大損害を生み出してしまったことによる責任を取りたくが無いために、声高に強硬姿勢を見せているのか。


 仮に俺をこの場所で倒すことが出来なければ、この指揮官は間違いなく処分される。しかし俺を倒すことが出来ていれば、いかようにも言い訳をすることが出来るのだ。


 例えばであるが、俺がドラゴンにも匹敵するような強力な魔物でしたと報告したとしよう。俺が生きていればその後の調査でその嘘がバレるかもしれないが、俺を殺していればウソがばれる心配は無い。


 この国の兵士たちにもそれなりの損害は出してしまったが、相手がドラゴンに匹敵するほどの強さを有していたとなれば、むしろその程度の被害で抑えたことに対する褒章が出るかもしれないのだ。


 だからこの場で甚大な損害がでようとも、何とかここで俺を倒そうとしてくる。むしろ俺をこの場で倒さなければ、彼の指揮官としての人生は終わりを告げたと言わざるを得ないのだから。


 …しかし、嘘の報告書を提出してこいつが処分されないという保証もないか?いや、国も自国の威光を保つためにその嘘の報告書を認めざるを得ないか。


 よく分からないぽっと出の魔物に国の精鋭部隊を壊滅寸前にまで追い込まれましたなんて、発表したくは無いだろうからな。それは、ただでさえ困窮したこの国にとって更なる困窮の原因になってしまうかもしれない。


 だったら嘘の報告と分かったうえでも、ドラゴンに匹敵する強さを持つ魔物を倒したこの指揮官を英雄に据えることで、国に対する求心力を高めるほうが都合がいいと判断してもおかしくは無いか。


 ………と、そんなことを考えていると、補佐の兵士によって指揮官が殺されてしまった。残念だ。兵士の撤退を認めない彼がいれば、このまま兵士達を殲滅することが出来たかもしれないのに。


 「指揮官は魔物の攻撃によって殺された!よってこの場の指揮は私が引き継ぐ!総員撤退!1人でも多く生き残って、この場で得た情報を少しでも多く国に持ち帰るのだ!」


 待ってましたとばかりに兵士たちが撤退していく。撤退と言うよりは、逃げ出したという表現の方が正しいのかもしれない。王都のある方角に逃げる者もいれば、真逆の方角に逃げる者もいる。『1人でも多く生き残って』という命令を実行するためには、全員が同じ方角に逃げるのは分が悪いと各自で判断してのことだろう。


 これで殲滅は難しくなったな、そんなことを考えていると俺の前に数人の兵士が槍を構え立ちふさがった。先ほど指揮官を殺した補佐の兵士もいる。命を賭して、俺の足止めをするつもりだろう。周りの兵士はそれに同調した者か。


 いい覚悟だ。彼が最初からこの場の指揮を任されていれば結果は変わったかもしれない。だが、俺は、俺の目的の為に行動させてもらう。相手が誰であろうとな。立ち向かってきた兵士達を殺し、逃げ出した兵士の追撃に向かった。

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