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 領主の館は比較的立派な装いをしている。館の周りにはそこそこ高い壁が張り巡らされており、都市を守る城壁とは違いこちらの方はちゃんと補修がなされているようで目立つような損傷は見られなかった。


 壊すとなれば多少は骨が折れたかもしれないが、面倒なのでジャンプしてこれを乗り越える。中にはまだ衛兵と思われる兵士が多く残っていた。忠義に厚いのか、それとも館の頑丈な壁の中の方が安全と判断しての事なのか。


 真意は定かではないが、ジャンプして壁の中に侵入した俺を見てすぐに逃げ出すものがいたことを考えると、どうやら後者の方なのではないかと勘繰ってしまう。


 逃げ出した衛兵を掴まえて捕食。木の陰や館の壁などを利用され何人かには逃げられてしまったが仕方あるまい。まぁ、比較的魔力量の多い、強い兵士から順に捕食していったため、逃げる時間のあった兵士はあまり経験値を獲得できないような弱い兵士だったので損失は最小限であったと言えるだろう。


 目についた粗方の兵士を捕食し終えたので、館の中にいる領主を殺しに行くとしよう。


 領主がこれほどの騒ぎが起きながら依然として館の中に残っている。最期まで領主としての務めを果たそうとしているのか、館の外に逃げ出す勇気が無かったのか…いや、どちらでもない。領主は逃げようとしているが、逃げられなかったというのが正解だ。


 この館には、緊急時に都市の外に抜け出せる為の隠し通路がある。領主はそれを使って都市の外に逃げようとしていた。だが、その隠し通路に繋がる扉が開かないようになっているため依然としてこの館にとどまっているのだ。


 何故、扉が開かないのか。理由は簡単、隠し通路の存在を知った俺が、事前に扉に開かないように細工をしておいたためだ。領主は今頃、開くことのない扉を開こうと一生懸命なはずだ。実際、その扉付近にいくつかの魔力の反応があるのだ。


 いずれも弱者ばかりだ。1人だけ銀級冒険者相当の魔力を持つ実力者?もいる。この段階で領主の近くに控えているという事は、恐らくはその人物が領主にとっての懐刀、最後の砦というわけか。


 とはいえ、銀級冒険者相当の実力で俺に適うはずもない。領主にはこれといって恨みもないし、苦しめることなく建物ごと押しつぶして殺してやった。


 これにて当初の目的はほとんど完了した。後は更なる被害を生み出して、向こう数十年は復興にのみ力を注がなければならない状況に追い込んでやろう。…いや、そうなってしまえばこの都市を放棄するかもしれないか。


 そうなるとやはり、周辺にある都市も出来る限りの被害を与えておかなければ安心してドヴェル共和国に帰ることは出来ない。この都市が物資の集積場として使えないようになれば、周辺にある都市のどれかになるだろうからな。






 それから俺は、近くにある街や都市を中心に順に襲撃をかけて行った。最初の数週間は、魔物が都市を襲撃して回っているという連絡が届いていなかった。こちらの襲撃に全く対応が出来ておらず、この国がいかにずさんな行政体制であったか身を持って体験することが出来た。


 流石に1カ月を過ぎる頃には何とか連絡だけは届いていたのだろう、一応は俺対する迎撃態勢は整えていたが、いかんせん実力と装備品の質が圧倒的に足りていなかった。


 人間達が俺を迎え撃つために一生懸命に用意したであろう兵装の数々を圧倒的な武力で蹂躙するというのは、スライムという最弱の種族に転生して絶望した俺に少なくない高揚感を与えてくれた。


 そう言った理由もあってか、当初ドヴェル共和国に近い都市のみを襲撃する予定ではあったが、いつの間にか『身の危険を感じるまで』というものにすり替わっており、期せずしてバラビア王国奥深くまで侵攻することになってしまった。


 このまま王都を蹂躙でもしようか、そんなことを考えながら襲撃をかけて行ったわけだが、ついにこの国も俺の討伐に本格的に乗り出した。バラビア王国最強の部隊が王都を出立したのだ。


 この部隊は王国に住む王族を守護する役割も持つため、本来なら魔物の討伐の為に派遣されることは無かっただろう。つまりは俺を、それほどの相手と判断したという事だ。


 部隊の人員は総勢1,000人を超え、その6割が銅級冒険者相当の強さを持ち、3割ほどが銀級相当の強さ、残りの1割は金級冒険者相当の強さを持ち、マジックキャスターも所属しているという、他国の騎士団と比べても決して見劣りしないほどの戦力を有している。


 数だけで言えばドヴェル共和国に派遣された人員のほうが圧倒的に多いが、戦力的には決して引けをとらないだろう。そんな精鋭部隊が王都を出立し、俺が最後に襲撃した都市との間に陣を構えてジャイアント・フロッグの襲撃に備えている。


 入れ違いにならないように索敵部隊を常時展開し、奇襲に合わないように陣の警備は万端と言ったところだ。俺はそんな精鋭部隊のいる陣の真ん中で、スライム形態に戻り情報収集に勤しんでいた。

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