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「はぁ…はぁ…ったく、何だってんだよ、畜生め…」
「口動かしてないで足を動かせ!ただ…もしかしたらだが、ドワーフ共の反撃があったんじゃないのか?この国の連中、ドワーフから恨みを買いまくってるだろうしな」
「あれだけ毎年のように侵攻してりゃ、そうもなるだろうぜ。しかし、ドワーフ共に戦争を仕掛けなきゃ他国からの支援が受けられんからな。仕方ないっちゃ、仕方ないんだろうが…」
深夜、突然の轟音によって目覚めた俺達は状況を確認しないまま宿を飛び出し、騒ぎが起きている城門と一番離れた城門を目指して走っていた。
この都市周辺には魔物がほとんど生息していない。そのためその轟音の原因はドワーフ共にあると考えが至った俺達は、都市を守るためにこれを迎え撃つという選択肢を即座に捨てた。
奴らの重装兵部隊は高度な冶金技術によって精製・加工された頑丈な鎧を身に纏い、俺達の持つ半端な武器では傷一つ付けることは出来ない。つまり俺達が出張っても全く意味が無いという事だ。
それに相手が甘ちゃんであるドワーフなら占領はされても、都市の連中が皆殺しにはされることは無いだろう。ならば警備兵を見殺しにしてこの都市から逃げ出しても、非難はされないはずなのだ。いや、そもそもそれはこの都市を守る警備兵の仕事であるはずだ。元より俺達とは関係のないことだ。
周囲の住民も、騒ぎを聞きつけて家の扉から顔を出し、外の状況を把握しようとしている人を何人か見かける。中には即座にこの都市を出た方が良いと判断した家族もいる様だ、身の回りの金目の物をカバンに入れて、子供の手を引き俺達と同じように城門を目指そうとしている連中もいる。
とりあえず比較的デカい家から出てきた、そこそこ金を持っていそうな連中の顔を覚えておくことにする。奴らを助けるためではない。無事都市の外に抜け出せたとき、奴らを襲って金目の物を奪うためだ。悪く思ってくれるなよ、俺達も自分の身が一番なんだ。
そんな事を考えていると、ズシン…ズシン…と何か大きな物が近づいてくるような音が聞こえた。もしかしたらこれは、襲撃者の正体がドワーフではないという事か?
確かに重装兵の纏うよりは重たいが、こんな音が鳴り響くほどでもない。それに音源が一つであり、歩いてくる音…というよりはジャンプして近寄っている、そんな感じの音であった。
音の正体が気になり、恐る恐る振り返る。そこにいたのは今まで見たこともない、大きなカエルの様な化物だった。
「おい!何だありゃ、魔物か!?」
「俺が知ってるわけねぇだろ!」
普段は何かと頼りになる、腐れ縁であるこの2人も今回の事では役に立ちそうにない。恐らくこの2人も俺と同じことを考えているはずだ。
「おい!あんたら冒険者だろ!何であんたらも逃げてんだ、立ち向かえよ、奴を倒せよ!」
ちっ!好き勝手なことを言ってくれる。あんな化物倒す力があれば、こんなクソみたいな国からとっとと出ているさ。ムカつくことに、周囲の市民もそれに触発されてか、「早く倒せ!」とか「逃げてんじゃねぇ、臆病者!」と鬱陶しくギャーギャー騒ぎ始めた。
「うるせぇ、ボケ!冒険者が動くときゃ依頼料が必要なんだ!倒して欲しけりゃ金を出せ、金を!この貧乏人共が!」
そう言って一番最初に俺達に文句を言ってきたジジィを殴り倒す。俺達の態度にビビったのか、先ほどまで威勢よく声をあげていた連中が一気に黙る。どうせ冒険者が自分たちに暴力を振るわないとでも思っていたのだろう、だから俺達を非難することが出来た卑怯者だ。俺達も大概だが、こいつらもクソみたいな連中だ。
ただ運悪くその騒ぎを聞きつけてしまったのか、魔物がこちらに標的を定めて近寄って来る。近寄ってくるのは分かっている…だが、どうしようもない。多少金を持っている冒険者なら煙幕を発生させるという魔道具を使用するだろうが、俺達にそんなものを買う金は無い。
あったとしても、飲み代に消費したはずだ。最近、新しくこの都市に来た馬鹿な新人冒険者に散々奢らせて少しだけ金に余裕があったのだ。こんなことなら1つぐらい買っておけばよかった。今更ながらそう思った。
もし無事に生き延びることが出来たら念のために買っておこう、そう強く決心すると同時に腰のあたりに何か太いひも状の様な物が絡みついた。と、同時に浮遊感が俺を…いや、俺達を襲う。
何だ、これは!状況を確認できぬ状態のまま、気がつけば周りがベトベトした暗くて狭い場所に放り込まれていた。ここは…ど…こ………だ…




