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 「おい、ロジク!何をちんたら運んでやがる!そんなものさっさと運んで、次の荷物を運べ!ったく、ホント使えねぇクソガキが。てめぇみたいな奴を給料泥棒って言うんだよ!」


 本当の給料泥棒は人の賃金を中抜きしているお前の方じゃないか。…いや、それは本来の意味合いとは違うか。まぁいい。いつもならしばらくは腹立たしい気持ちが続くが、今日はそうでもない。むしろ、笑って聞き流せるほど爽快な気分だった。


 この都市を壊滅させる。その決意を固めた時、この都市で生活している間に感じていたたくさんの嫌なことも、笑顔で流すことが出来るようになっていた。そのため、ここ数日は実に晴れ晴れとした気分で過ごすことが出来ていたのだ。


 「何をニヤニヤしているんだ気持ち悪い。…いや、笑っているという事は、今の仕事に余裕があるという事か。そいつは悪いことをしてしまったなぁ、楽な仕事ばかり押し付けちまって。喜べ、追加の仕事を持ってきてやろう」


気持ち悪い笑みを浮かべながら去っていく現場監督。ちんたら運んでいると言っていたが、俺が今運んでいる物資も本来なら数人がかりで運ぶほどの重量があり、むしろ1人で運んでいることに称賛されてもいいはずだ。


 そんな事を考えていると、早速新しい仕事を持ってきやがった。くそっ、こういう時だけ無駄に行動力がある。


 ちなみに周りの連中も、被害が自分に及ぶのを恐れてか俺に手を貸してくれる素振りすら見せない。皆、自分の身が一番だ、それを攻めるつもりはない。当然ながらそれも俺にも当てはまらなくてはならない。


 つまり俺が、俺の利益を求めるためにここに住む住民には犠牲になってもらうのも正当であるという事だ。少しばかり暴論であるという自覚もあるが、やっている事をやり返されるだけ。批判をされる筋合いはない、いや、事の起きた後では批判のしようがないか。




 今日も何とか仕事を終え、宿までの帰路につく。肉体的な疲労はほとんどない。当然だ、俺の身体能力はかなり高いのだ。ただそれを奴らに知られるのは当然ながらよろしくない。そのため疲労困憊と言った態度でえっちらおっちら移動する。


 『ゼロ殿、今、大丈夫か?』


 グレイグ将軍から3日ぶりに念話が入った。声に元気が無い、大分お疲れの様だな。


 『大丈夫ですよ、グレイグ将軍。諜報員の撤退は無事完了しましたか?』


 『あぁ、何とかギリギリ間に合ったようじゃ。すまんな、こちらの都合に合わせてもらうことになってしもうて…』


 『どうぞ、お気になさらずに。きっかり3日後に行動を起こさなければならなかったというわけでもありませんでしたので。そちらも当然、この都市で活動されていたわけですから撤収に時間がかかっても仕方のない事ですよ』


 『そう言ってもらえると、ありがたい。代わりと言っては何だが、その諜報員たちにはお主が今おる『ベルレーン』と『バーバリン』との間にある街道に配備させておる。これでお主が暴れても、我が国に侵攻に来ている兵士たちに連絡が来ることは無いじゃろう』


 なるほど、侵攻に来ている兵士たちに連絡がいかないように連絡員を事前に処分してくれるという事か。確かに人間の兵士たちの練度は低く、位階も低いため倒すことはそう困難なことではないが残念ながら数だけはかなりいる。


 俺も易々と負けるつもりは無いが、流石に数の暴力にさらされ続けてしまってはいつかは力負けしてしまうかもしれない。用心のし過ぎかもしれないが油断はしたくない。実際、ゼノンの油断のおかげで俺たちは勝つことが出来たのだ。


 『ありがとうございます。これで心置きなく動くことが出来そうです』


 『何の。本来なら儂が、いや、儂らが実行せねばならなかったことじゃ。それをお主にやらせてしまう…少しぐらいは恩を返しておかなければな』


 わずかに残っていた憂いも無くなった。いよいよ待ちに待った瞬間が訪れるのだ。早速、今夜にでも実行することにしよう。ついさっきまで感じていた精神的な疲労もいつの間にか消えていたのだから。

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