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 その後、続々と集結する各地から徴兵された民兵達。時々、冒険者ギルドに剣や槍の指南の依頼が入ってきいたが、受領できるのが「銀級冒険者以上」となっており、実質的な指名依頼となっていた。


 この都市では珍しく割のいい仕事なのだろう。その依頼のあった翌日、上機嫌で酒を飲む銀級冒険者の姿を拝むことが出来た。


 民兵が集まっても俺の生活に特に変化は無かった。いつものように日中は荷運びの依頼をこなして、夜には情報収集をする。集められた民兵と指揮官の情報を集めようかとも思ったが、民兵は集めるほどの情報は無く、指揮官もこれと言った特徴のない国から派遣された凡人であったので早々に見切りをつけた。


 そんな日々を2週間ほど続けたある日、民兵が都市を出てドヴェル共和国に向けて出立していった。


 長かったような、短かったような…ただ、彼らが出て行ったことで、割のいい荷運びの仕事が無くなってしまったことに軽く絶望してしまい、俺はそんなことに絶望するほどこの都市の生活に慣れ始めたのかもしれないという事実により大きな絶望を感じた。


 俺自身も思うところがあり、とりあえずグレイグ将軍に人間が侵攻したことを報告することにした。


 『了解じゃ。人間の足の速さからすると、3週間ほどでこの都市に到着するはずじゃ。やはり、例年と同じ時期に開戦するじゃろうな』


 3週間もかかるのか。まぁ徴兵された民兵なら、足並みをそろえて行軍するだけでも一苦労だろうからな。そのぐらいの時間は必要なのだろう。


 『うむ、ご苦労じゃった…引き続き頑張ってくれ…』


 俺の気のせいかもしれないが、声…ではなく念話に力が無い気がする。少し前に念話を使ったときは感じなったことだ。何か気になる事でもあるのかもしれない。念のために聞いておくか。


 『あの…何かあったのですか?あまり元気が無いようですが…』


 『む…?バレてしもうたか。一応気を付けてはおったのじゃがな。結局は成らなかった話でもあるし、お主に伝えておくか迷ってはおったのじゃが…気づかれてしまったのでは話すほかないか』


 そう言って、つらつらと話し始めるグレイグ将軍。どうやらドヴェル共和国の議員たちの一部が、防衛費に国の予算を割き過ぎではないかと声をあげ始めたらしい。


 確かに近年ではドワーフ側の被害はほとんど発生していない。にもかかわらず毎年少なくない額の予算が防衛費として計上される。それを良しと思わない議員の暴挙ともいえるその意見は当然封殺されたが、一度声に出して発せられた意見が完全に消滅するということは無い。


 『ドワーフ側に被害が出ておらんのは将兵の頑張りによるものじゃ。それに被害がほとんどないからと言って、全くないというわけではないのじゃ!現に毎年少なくない負傷者が出ておる。にも関わらず、戦争を死者の数字でしか見ることのできん馬鹿な議員どもがおることに腹が立ってしょうがないんじゃ!』


 話しながら徐々に怒気を強めていく様は、彼がいかにこの件に腹を立てていたのかの証明であろう。


 『確かに、バーバリンで生活している方なら戦争の恐ろしさを知っているでしょうから防衛費の削減なんて口が裂けても言わないでしょうね。戦争を直接目で見る機会のない平和な首都で生活をされている議員だから、そんな意見を言うことが出来るのでしょうね』


 『質が悪いのは、その議員は本気でそんなことを言っておるという事じゃ。じゃから決してその意見を曲げようとはせん。…しかし、どういったわけか、その議員の裏に『モルガナ商会』の関係者がおるようなのじゃ』


 『なんで戦費の削減を訴える議員の裏に、大規模な戦争を望む『モルガナ商会』の関係者がいるんですか?真逆の事をしているじゃないですか』


 『分からん…が、防衛費を削ってその結果バーバリンの城壁を人間の国に攻略されてしまえば、一体どれほどの被害が出てしまうのか…想像するだけでも恐ろしいわい』


 あの城壁を人間に攻略されるとどうなるか。まず、城を守る兵士の命が奪われるだろう。もちろん簡単にドワーフが負けることは無いだろうが、城壁を攻略したという情報は人間の他の国々も知ることになる。


 そうなれば人間の国に援軍を派遣してくるかもしれない。バーバリンを本格的に攻略するための精強な兵士たちを。なんてったって、ドワーフの国には大量の鉱物資源に、高品質な製品を製造できる高い技術力もある。更には、鉱山で長い時間労働できる体質を持つドワーフの捕虜を大量に獲得できるチャンスでもある。


 つまりこの国には涎が出るほどのうまみがあるということだ。これを黙って見過ごすという手は無いだろう。この都市はその足掛かりとするための重要な拠点となるはずだ。


 そうなれば、いくら精強なドワーフ兵とは言え多勢に無勢。今までは強固な城壁のおかげで何とか防ぐことが出来ていたが、いつかは力負けしてしまう。その時には当然、グレイグ将軍の身も無事では済まないだろう。…もしかしたら『モルガナ商会』の狙いはそちらなのか?


 グレイグ将軍はドヴェル共和国でもかなり有名人なのだそうだ。そんな高名な軍人が人間に負けたとなれば、ドヴェル共和国の国民は危機を感じ国としても武器を大量に製造しなければならなくなる。その為の予算が国から大量におりる、つまり儲けるチャンスと言う事だ。


 グレイグ将軍が『モルガナ商会』の事を色々と調べているという情報を『モルガナ商会』が知っていたとすれば、邪魔なグレイグ将軍を排除できることに加えて自身の儲けにもつながる…まさに一石二鳥の作戦なのかもしれないな。

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