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「とりあえず俺は人間の国に行って情報収取をしようと思う。これは人間の姿に擬態できる俺ぐらいしか適役はいないからな。『教会』や『モルガナ商会』に関する情報収集はお前たちに任せてもいいか?」
「構わないが…お前の持つ『支配』の能力が俺達には必要だと思う。とは言っても、戦争がある以上、人間の国の情報もある程度は欲しいからお前が行くのは仕方のないことだとは思うが…」
「問題ない。今回俺達に同行させた眷属の中に『ドミネイト・スライム』の眷属がいる。今はまだ進化前ではあるが、そいつを進化させたら『ドミネイト・スライム』になるだろうから、そいつを進化させるところから始めてくれ」
「くくくっ。こういったときでも俺達を使って自身の強化を図るとは…相変わらず抜け目がないな、お前は。だが、『ドミネイト・スライム』の眷属を連れて来ていた準備の良さは流石といえるな」
苦笑いを浮かべながらそう答えるレオン。文句を言いつつも何かと俺に協力してくれる。協力して強敵を倒した仲だからな。付き合いは短いが絆は本物だ。
「峡谷付近には魔物はほとんどいないらしいが、この交易都市を挟んだ向かい側は『アーミー・ローカスト』の被害が無かったから、結構な数の魔物が生息しているらしい。そいつらを倒して経験値を獲得するのがいいだろう」
「すでにそこまで調べていたのか」
「それと、突然こんな雑貨店に何人もの獣人が出入りするようになれば周りから不審がられるだろうから、ここに出入りする人数を制限したり、何らかのアンダーカバーを作った方が良いんじゃないかと思うんだ」
「確かお前の眷属の念話を使用すればいつでもどこでも情報交換出来るわけだから、わざわざ全員がこの拠点に集まる必要もないか。それで…どうするんだ?」
「グレイグ将軍に渡した眷属が全部で7体。この場所にいる眷属は『ドミネイト・スライム』の眷属が1体と、俺直属の眷属が2体の計3体。獣人の数は10人だから、基本的には3人から4人で1つのチームを組んでもらって、その1チームに眷属を1体配備する予定だ。ここまでで何か意見はないか?」
特にないとの返答がある。話を続けることにする。
「幸いここは交易都市で獣人の数もそこそこいる。獣人が団体行動していてもあまり目立たないってのはありがたいことだな。それで、チームを組んで活動していても目立たない連中といえば、とりあえずは冒険者になるわけだが…」
ちなみにレオン達獣人は冒険者登録をしていなかった。なんでも彼らが住む村の近くには獣人が利用できる冒険者ギルドが無かったためであるらしい。そして、これだけの数の獣人が一気にドワーフの国で冒険者に登録すれば少なからず目立ってしまうだろう。
おまけにここにいる連中は全員金級以上の実力を持っている。短い期間でこれだけの腕利きの獣人が冒険者登録をすれば、目立たないようにすることは不可能だな。
もちろん実力を隠して登録することも出来るだろうが…ちょっと、いや、かなり難しいだろう。戦士としても経験が少ない俺でも、ここにいる連中の凄みというものを感じることが出来るのだ。熟練の冒険者ならなおさらだろう。それを欺いて実力を隠したまま冒険者登録するのは無理だと思う。
「何人かは、別のアンダーカバーを用意する必要があるでしょうね」
ため息交じりでそう答えるアルマ、俺が言わんとせんことを即座に察してくれた。流石、俺の眷属が腹黒さで認めただけの事はある。
「別のアンダーカバーと言うが…何かいい案でもあるのか?」
「レオンは冒険者として登録した方が良いだろう。見た目も装備もいかにも冒険者!って感じだしな。アルマは…旅の行商人って感じかな?いや、大口の取引に来た大商店の営業でも通用しそうだな、見た目がかなり賢そうだし」
「そうだな…って、何で俺のアンダーカバーは冒険者縛りなのに、アルマには複数の選択肢があるんだ?」
それはレオンが見た目からして脳筋で、戦う以外の事を知りそうにないから…とは口が裂けても言えないな。やはりアルマはそのことは察してくれたのか、苦笑いをすることで誤魔化そうとする。
「まぁ、そのことは後で決めるとしよう。それよりも…」
無理な話の転換にレオンが首を傾けるが、ありがたいことにそれ以上は言及してこなかった。




