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 「さて、それじゃ作戦会議を始めよう。ただその前に、俺達が知りえたドワーフの情報のすり合わせをしようと思う。何か感じたこととか、気になったことがあれば遠慮せず言ってくれ」


 そうして俺の合図によって始まった作戦会議。ドヴェル共和国を取り巻く状況があまりよくないという印象で話が進んでいたが、獣人の1人が気になることがあったとして俺に質問をしてきた。


 「そもそもの話ではあるが、どうしてドヴェル共和国は人間の国を攻め滅ぼさないんだ?伝え聞いた国力の差から考えると、それほど難しい事とは思えないんだが…やはりそこにも『教会』と『モルガナ商会』とやらが関わっているのか?」


 『モルガナ商会』とはグレイグ将軍の調査によって発覚した、大規模な戦争を望んでいる『死の商人』の代表格の様な商会だ。歴史も古く、多くの議員とも独自の繋がりがあるため下手に手を出すことが出来ないでいるそうだ。


 「全く関係が無いとは思えないが、議員の中には『穏健派』という必要以上の戦いを望まない勢力も一定以上いるだろうから、その派閥も攻め滅ぼすことには反対していると思われる。それよりも何よりも、比較的好戦的な派閥も人間の国を滅ぼすことにはあまり魅力を感じていないのも原因の一つだと思う」


 「魅力が無い?何故だ?人間の国を滅ぼせば、それ以上自国を攻められることは無くなるんじゃないのか?」


 「確かに『現在攻め込んできている人間の国』からの攻撃は無くなるだろうな。だが『新しく生まれる人間の国』が、また新たな戦争の火種を持ち込むんじゃないのか?」


 「『新しく生まれる人間の国』?確かに攻め滅ぼした国土を放置すれば、他所から人間が入植して来て新しい国家が生まれるかもしれないが、ドヴェル共和国が主導して攻め取った国土を管理すれば敵対することは無いんじゃないのか」


 「確かにその通りだ。だが先ほども言ったように、人間の国には管理するだけの魅力が無いんだ。国土は『アーミー・ローカスト』によって作物が実らない痩せた大地が広がり、頼みの綱であった鉱山も現在では枯れ果ててしまっているからな」


 恐らくは、ドワーフの国の力を全力で注げば、無事であった土地を開発してある程度は復興できると思う。だが、そうなるまでにいったいどれほどの年月と費用が掛かるのか。


 そして復興に成功したとしても、その国土が元は人間の国であり、住民のほとんどは人間であるという問題もある。その住民が、自分たちとは種族の違うドワーフに支配されるという現状を素直に受けいれ続けるとは到底思えないからだ。


 そうなれば、人間による復権を得るために内乱がはじまるだろう。そういった事をそそのかすことが得意な『教会』という厄介なパトロンも出てくるかもしれない。そうなれば、復興に費やした全ての努力がすべて無駄となってしまう。


 『教会』は歓喜するだろうな。何もしなくてもドワーフの国力は人間の国の復興に力を注ぐことで弱体化するだろうし、最後の最後でドワーフ国からの独立にちょろっと手を貸すことで自分たちを崇め奉る人間の国の力が全て手に入るのだから。


 では逆に、最低限の管理だけして人間の国の復興に一切手を貸さなければどうなるだろうか。


 これもまた、人間達は面白くないと感じるだろう。本土、つまりドヴェル共和国に住むドワーフはある程度マトモな生活が送れることに対して、自分たちの住む人間の国はどうしてこうも貧しいままなのか、と。


 そうした不満が蓄積していけば、結局はそれがドワーフに対する悪意へと変わり、内乱が起こっても不思議ではない。そして人間の復興に手を貸すべきだと主張していた議員はこう主張するだろう、「内乱が起きたのは、人間の国の復興に尽力しなかったからだ」と。なんの根拠もない言葉であり、それだけで政局が変わるとは思えないが、一定の票が移るという事はあるかもしれない。つまりそれだけこの国における『教会』の力が強まることになる。


 人間国家の復興に力を貸せば、ドワーフと人間の幸せな未来が訪れる」と、自分たちの考えた理想が実現すると本気で思っている連中ほど質の悪いモノは無いと思う。


 可能性があるとすれば、ドワーフとは全く関係のない要因で国が亡べば、もしかしたら…


 腹立たしい事ではあるが、人間の国を放置するしかないというのが現状だ。恐らくは人間の国もそのことを自覚したうえで、攻め込まれることが無いと確信しているから毎年のように無理な出兵を繰り返しているのだろう。


 仮に攻め込まれても失うものはほとんどない。正直、失うものを持っていない人間が一番怖い。何をしてくるのかが全く予想できないからな。


 ドヴェル共和国は民主主義となることで様々な意見を政治に反映することが出来たが、その反面『モルガナ商会』や『穏健派』といった意見にも耳を貸さなければならなくなってしまった。


 そのことをグレイグ将軍は十分に理解していた。だから『表』ではなく『裏』で動いてもらうために、俺達に協力を求めたのだ。

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