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 想像していたよりもうまくいった。多少の音は出てしまったが、それに気が付いてテントの中から出てくる冒険者はいない。後はどれだけ周囲にばれることなく、敵の数を減らすことができるかで勝敗が決まる。


 まずは拠点中央にあるかがり火を消していった。魔物は夜目が効くが人間は特殊な訓練でもしていないと、暗闇を見通すことはできないからだ。これから冒険者たちのテントを襲撃していくわけだが、あえて銀級冒険者のテントは狙わない。俺にとって銀級冒険者達の実力が未知数であり、どの程度で起きてしまうか分からないからだ。まずは数を減らすことを優先する。


 冒険者たちのテントは拠点の中央を囲むようにまばらに設置されている。テント同士の距離が離れているのは、個人のプライバシーをある程度は守るための配慮なのかもしれない。隣接していないということはそれだけ異変が起きても周囲にはばれにくいということであり、俺にとっても都合がよい。


 眷属を銅級の冒険者の寝ているテントの中に侵入させ、中の様子をうかがう。やはりまだ外の状況を把握できていないらしく大きないびきを立てながら眠っていた。


 ジルをテントの入り口近くまで呼び寄せ、冒険者の口を助けを呼ばれないよう眷属が身を挺して?塞ぐと同時にジルに攻撃してもらう。多少時間はかかってしまうが確実に数を減らしていく。




 30人近くの冒険者を同じ方法で殺した後、不意に人の動く気配を感じた。


 「敵襲だ!魔物が侵入しているぞ!生きているものは武器をとれ、陣形を立て直すぞ!」


 何時かはバレるとは思っていたが、思っていたよりも早かった。流石は銀級冒険者だ。ここまでは物音をほとんど出してはいない。では何故ばれたのか。多分、静かになり過ぎたことが原因だろう。


 夜、皆が寝静まったからと言って物音ひとつしなくなるということはありえない。当然大きないびきをかいて眠る者もいるし、寝言を言う者もいる。夜番の雑談だって、周囲に気を配って小声で話していても、内容まではわからずとも声を感じることはできるだろう。


 すでに何日かこのメンバーで夜を明かしているため、夜中に聞こえる物音は大まかには把握していたのだろう。それが急に少なくなり、かがり火が消されていることまで気がつけば、何者かによる襲撃だと考えが至るのは不思議ではない。


 武器を手に、テントから飛び出してくる冒険者達。銀級冒険者の一人がオイル式のランタンを持っていたらしく、その明かりを高く掲げて仲間たちに集まるよう叫んでいる。しかしあの程度の明るさでは少し離れた場所にいる、こちらの様子までをうかがい知ることはできないだろう。


 ジルにはすでに隠密行動をする必要はなくなったことを伝えているため、近くにいる冒険者を次々と切りつけていく。止めを刺す必要はない。少しでも手傷を負わせることができれば、戦意をそぐことができるだはずだ。


 切りつけられた痛みによって発せられた仲間の悲鳴を聞き、これ以上襲撃者にいいようにさせてはならないと判断したのだろう、その冒険者がランタンの火を自身のテントにかけた。光源を大きくして襲撃者の正体を探ろうとしての行動だ。少しずつ燃え広がると同時に、周囲がより一層明るくなり始めた。


 「オーガだ!例のオーガが襲ってきやがった!」


 冒険者の一人がそう叫んだ。この辺りにはジル以外のオーガはいないため、自分たちが捜索していたオーガだと当たりを付けたのだろう。その声を聴いた冒険者達の反応は大きく二つに分かれた。


 一つ目は憎悪。今まで一切の手掛かりのなかった標的が自分の方からやってきたのだ。ここで仕留めて被害者たちの無念を晴らしてやる、そういった積極的な感情。そして二つ目は、こんな状況でオーガなんかと戦うなんてできない。何とか生きてこの状況を脱したいという、どちらかというと消極的な感情だ。


 ただし、それを責めることはできないと思う。今のこの状況では武器を持つことはできても、防具を装備するだけの時間的な余裕はない。つまりジルの攻撃がかすっただけでも致命傷になりかねないのだ。だったら今は恥を忍んで撤退し、後日装備をきちんと整えてから討伐に向かった方が安全であるという考えに至るのも不思議ではない。わざわざ自分たちにとって不利な状況で戦いたくはないと思うのは当然なのだ。


 見たところ割合は半々といったところだな。後者は隙を見て撤退するつもりであるようで、積極的に前に出て戦おうとはしない。後方支援に徹しているようだ。だがそれを許さないものがいる。銀級冒険者パーティーのリーダーであるラグナだ。


 「逃げるな、戦え!俺たちがここで奴を倒さないと、より多くの人命が失われることになるんだぞ!奴をとり逃せば次に襲われるのはお前たちの故郷かもしれないんだぞ!いいのか?お前たちの家族や、友人や、恋人が奴に殺され、故郷が奴に蹂躙されても!」


 逃げ腰だった冒険者の幾人かの目に戦闘の意思が見え始めた。上手いものだと思う。ただしその状況は俺にとっても望ましいものだ。経験値に逃げられたくはない。


 その後冒険者はジルの足止めをするグループ、急いで装備を整え万全の状態でジルと戦う準備をするグループ、戦闘のしやすいように周囲を明るく照らすための資材や、けがの治療をするポーションを準備する支援グループの、3つに分かれて行動を開始した。


 当然その間もジルによる攻撃は続いており、負傷する冒険者が増えていっている。なぜなら足止めをするグループのメンバーが、実力的に劣っている銅級の冒険者で占められているからだ。むろん彼らがこのような危険な仕事に志願したのではなく、銀級冒険者たちに命じられてのことだった。


 銅級冒険者程度の実力では、束になってもオーガに勝つことはできない。だったら足止めに徹してもらい、銀級冒険者である我々が装備を調え万全の状態で戦闘に挑んだ方が勝率が上がる、と考えてのことなのだろう。


 ただし、先ほどの演説の効果もあって戦闘開始直後には多少なりとも戦闘意欲がそれなりにあったようだが、仲間が次々にやられていく様を見れば、オーガの強さに恐れをなし及び腰になってしまうのが出るのも仕方のないことだろう。


 更にその消極的な姿勢をとる一部の者たちの行動が、足止めをするグループ全体の連携を崩してくれている。おかげで30人近くいた冒険者を瞬く間に無力化することができた。あえて今ここで止めを刺さないようにとジルに指示を出す。


 彼らが生きていれば、後から来る銀級冒険者たちは戦闘中彼らに被害が及ばないよう配慮しなければならず全力を出せないだろうし、いざとなれば肉盾にも人質にもすることもできるからだ。


 残る冒険者は20人弱。銀級冒険者パーティーと銅級冒険者パーティーが2つずつだ。装備を調えた冒険者が続々と集まってくる。最低限の武装を調えるだけの時間は稼がれてしまったか。人数的には大分削ることができたが、戦力的にはこれからの方が大変だろう。気合を入れ直して挑むこととしよう。まぁ、実際に戦うのはジルなんだけど。


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