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「えっと…なぜそのような重要そうな組織に、新参の…ましてやドワーフでない私たちに協力を求めるのでしょうか?」
「身内の恥になるが、先に言った『死の商人』の手がどこまで及んでおるのか不明なのじゃ。もしかしたら、この都市の駐屯兵の中に彼奴等に懐柔された者もおるかもしれん。信用できるのは儂の昔からの部下ぐらいしかおらんのじゃ」
なるほど、だから俺達に協力を求めるという事か。俺達は新参…というより新参未満であると言えるほど、この国に接点が無い存在だった。加えてエルフの国の国王のお墨付きという人材だ。つまり『死の商人』の関係者である可能性はゼロであると断言できる。
ちなみに、その昔からの配下である程度の自由がある立場の者に協力をしてもらえば?とも思ったが、彼らにも色々と裏で動いてもらっているとかで手が回りそうにないとのことだった。やはり人員不足感が否めないか。
そのような外国の人材に頼らなければならないほど、この国の中枢に敵の手先が入り込んでしまっているかもしれないとは…正直なところ、頼りないと思ってしまう。どうしてそんな状況になるまで、何も対応をしてこなかったのかと。
「不満を感じておる様じゃの、そのような状況に追い込まれるまで、何もしてこなかった儂らのことを」
おかしいな、顔には出してはいないはずなんだが…やはり格上の戦士には分かってしまうのか。もしかしたら顔ではなく動作とか雰囲気とか…そういったところから心の内を読み取られてしまうのかもしれない。精進せねば。
「情けない話じゃが、否定はできん。儂らがこれほどの状況に追い込まれてしまった理由、同胞を信用しすぎた…いや、信用したかったのかもしれんな。そのせいですべてが後手に回ってしもうたのじゃ」
先程のレオンが言ったことと同じだ。自国の民が、自国の民の命を糧に商売をするということを信じたくなったという事だ。俺から言わせりゃ甘いの一言だ。人間なんて目の前の小さな利益の為に簡単に人を裏切るような奴もいる。
それを実際に体験した俺が証拠だ。俺を貶めた連中は、皆、己の利益を得るために俺に罪を被せて殺したのだ。…思い出しただけでも腹が立ってくる。別の事を考えることにしよう。
それにしても、甘さの残るグレイグさんがよくここまで出世することが出来たものだと逆に感心してしまう。いや、そういえば本来ドワーフという種族は義理人情に厚い種族だと聞いたことがある。同胞が同胞を裏切る、という考えを持っていないことこそが、ドワーフにとっては普通なのかもしれない。
敵は商人だ。当然人間と関わる機会も普通のドワーフよりも多いはずだ。もしかすると商売で人間と関わることで、人間のそういった悪いモノの考え方を学んでしまったが故なのかもしれない。せこせこと真面目に働くよりも、ずる賢く大胆に商売をする方が簡単に儲けることができるのだと。色々と考えることはあるが、その前に1つ聞いておかなければならないことがある。
「あの、一ついいですか?どうして私たちのことをそれほど信用してくれるのでしょうか?私たちがこの情報を、自分たちの利益を最大にするために活用するとは思わなかったのでしょうか?」
つまり俺たちがこの情報を『死の商人』に売る可能性を考えないのか?ということだ。
「あの方は…エルフ国の国王陛下はそのようなことをするお方ではない。知略に富んで義を重んじ、エルフの国とドワーフの国、両国の発展を望んでおられるあのお方の事じゃ。そんな方から紹介されたお主らが、そんな不義理なことをするわけが無いという確信があるのじゃ」
他国の重鎮からもかなり信用されているな、アーロン様は。この口ぶりからすると、もしかしたらグレイグさんはアーロン様との面識があるのかもしれないな。あの人フットワーク軽そうだし。色々なところに顔が効きそうだ。
「分かりました…俺はグレイグさんに協力してもいいと思う。レオン、お前たちはどうだ?」
「ゼロと同じ意見だ。元より面倒ごとに巻き込まれる覚悟をしたうえでこの場所に来たのだ。何より『教会』の計画を妨害することに繋がるのなら、それはむしろ望むところだ」
レオン達には、俺が入手したマリアーベ伯爵と『教会』の関係をすべて伝えたせいもあってか、『教会』に対して良い感情は持っていない。他の獣人たちも同じ意見らしく、口々に同意の声が上がる。
「感謝するゼロ殿、そして獣人の方々よ。情報が洩れる可能性を少しでも減らすため人員はあまり確保できていないが、予算の方は考えを共にする協力者もあって、それなりに潤沢にある。必要なものがあれば言ってくれ。その前に儂が知る情報を伝えておこう」
先程はグレイグさんがあまり頼りないと思っていたが、この人もこの人なりに、それなりに情報を集めていることが分かり少し安心した。どうやら、俺達が協力者になるかならないか分からない状況では、すべての情報をさらけ出すのは不味いと判断したのだろう。よかった、それなりに頼りになりそうな人物だった。




