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 「初めに基礎知識として言っておくが、戦争と言うものは非常に儲かるんだ。関連する業種が、ではあるがな」


 「それがさっき言っていた、『死の商人』ということなのか?確かに戦争をするなら武器や医薬品は大量に必要になるから、商人はそれなりに儲かるだろうが…」


 「それだけじゃないぞ。捕虜を捕らえればそれを奴隷として販売も出来るから奴隷商も儲かるし、当然武器の原材料となる鉄鋼業も大忙しだ。と、こういった具合で戦争は物の動きが非常に活発になる」


 「………」


 「しかし、武器商人が常に大儲けしているというものでもない。平和な世が続くと当然ではあるが武器の需要は低くなるからな。国家の当然の備えとして一定の需要はあるだろうが、その量も戦時ほど多くは無いだろう」


 「つまり、『死の商人』にとって儲けることのできない平和な世の中は望むべきものではないという事か?同胞の…自国の民が戦争によって死んでしまう事になるかもしれないんだぞ!まさか…そのために『教会』と手を組んで大きな戦争を引き起こそうとしている言う事なのか!?」


 同胞の、同じ種族である獣人を人間から解放するために自分の命を懸けることのできるレオンからすれば、同胞の命が消費されてでも自身の利益を追求するという考え方は受け入れがたく、そして許しがたい事だろう。怒気を強めてそう答えた。


 「恐らくは、じゃがな。流石にいつから繋がっておるのかは分からんのじゃ。ここ十数年の事か、『民主主義』となった50年前の事か…もしかしたら100年以上前からであり、ずっとその機会を窺っておったのかもしれん。最近になって活動が活発化したためか、ようやく怪しい商人に目星を付けることが出来たぐらいじゃ。じゃが、奴らはずる賢いからな。簡単に証拠をつかませることは無い」


 「しかし…さっきの話では、人間に汚染された大地の浄化法を教えて、人間のドワーフを攻める理由を無くすために動いていたんじゃ…」


 「彼奴等が望むのは大規模な戦争じゃ。今までの様な小規模のものではない。現に最近の人間との戦争では、攻め込んできた人間達をこの都市にある堅固な城壁を使って防御することのみに重点を置いておる。人間たちの兵糧が尽きるまでな。それが最も、我が国において損害が無い撃退方法じゃからな」


 「つまり、奴らはそれを望んでいないという事だ。人間の国の土地が浄化されて食料自給率も回復すれば兵糧攻めもしにくくなるし、戦争に動員できる戦力も増えるだろうからな。今よりも大規模に人・物・金が消費される戦争を望んでいると言う事なのさ」


 今はまだ戦争の期間は短いためドワーフ側にそれほどの被害は出ていないが、長期間にわたり城壁に軍隊を張り付かれてしまえば交易などに大きな損害が出てしまうだろう。そうなってしまえばドワーフ達も城壁の外に出て戦わざるを得なくなってしまう。


 城壁の外で戦うという事は野戦になる。装備が充実しているドワーフ達が簡単に負けることは無いだろうが、武器などの損耗率は籠城戦の時とは比べ物にならない量になる。それが奴らの狙いだと思う。


 もちろん『教会』と『死の商人』が心の底から互いを信じ合い、結託していることは絶対に無い。『教会』の人間は亜人を蔑んでいるし、『死の商人』も戦争の拡大は望んではいるが自国が負けることは望んでいない。


 突くことが出来るとしたら、その両者の根本的な考えの違いを攻めることが出来るのなら言うことは無いが、簡単にはいかないはずだ。所詮俺は元商業ギルドの一職員なのだ。老獪な商人の謀略が入り乱れる世界でうまく立ち回れる自信は無い。


 「しかし…それを黙って見過ごすということは無いですよね?」


 「無論じゃ。『秘密警察』…要は反乱分子や外国の間者の捕縛、情報収集、殲滅などを目的として結成された組織なんじゃが、ようやく形になってきた。その組織に、おぬし等に協力してもらいたいと思っておる」


 良かった。同胞を最後まで信じたいなんて甘い考えを持つような人じゃなくて。これなら、それなりに頼りにしても大丈夫だろう。

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