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「しかし、そんなあからさまなことをすれば、次の投票で議員に選ばれることは無いんじゃないのか?」
「普通はそうなるじゃろうな。じゃが、民主化運動が起きた時に『人間』にも参政権を与えてしまったんじゃ。奴らは次の投票の時も同じ議員に投票をした。今にして思うと、なんて愚かなことをと悔いるばかりじゃ」
「え…?何で人間にも政治に参加する権利を与えたんですか?ここはドワーフの国ですよね?人間が人間を優遇する議員に投票することは目に見えていたはずじゃ…」
「もちろんすべての人間に参政権を与えたわけではない。10年以上ドヴェル王国に居住しておるとか、一定以上の税を国に治めておるとか…ただ当時、法律を定めた者共が思う以上にこの国には人間の手先が入り込んでおったという事じゃ」
昔から少しずつ、このドワーフの国の国力を削る機会を虎視眈々と狙い続けていたということか。それが出来るだけの力を有する組織…もしかしたら100年以上前からこの国にも『教会』の手先が入り込んでいたのかもしれない。
そして『アーミー・ローカスト』の災害を攻撃材料に当時の封建社会を崩壊させ、少しでも自分たち人間にとって都合の良い政策取らせることのできるように、『民主化』そして『平等』という耳障りの良い建前を用意して、見事この国でそれなりの権力を得ることに繋がったという事か。従来の封建社会なら、自国民…つまりドワーフを優先させない政策は決して実行しないからな。
「無論、人間を支援するといった意見を持った議員の割合は決して多くは無い。じゃがそういった者どもは、我が国にとって大切な法案を通すときも、決まって反対をする。ドワーフの権利を守る法案を出した時ですら満場一致にならなかったときは、事前に万全の準備が出来なかったことに心底後悔したんじゃ」
握りこんだ拳で机を殴りつける。それなりに重厚そうな机にもかかわらずビリビリと揺れるさまは、彼がどれほどの怒りを抱いているのか容易に見て取れた。
「そういえば、リース…知り合いのエルフの商人から聞いた話ですが、『アーミー・ローカスト』によって汚染された大地を復興させる研究をこの国で推し進めており、その研究成果を人間にも渡すという話があるとか。もしかして先ほどの話に出てきた議員達が主導となっているのでしょうか?」
「そうじゃったらいいんじゃが、残念ながらそれはまた別の役人の話じゃ。自分たちは恩を受けたら必ず返す、だから人間もそうであると考えておる阿呆どもじゃ。じゃが、この件に関してはこの2つのグループは協力体制が出来ておる。そのため、毎年少なくない予算を汚染された大地の浄化の研究予算として計上せざるを得んのじゃ」
建前が「汚染された大地の浄化」となっていれば、真に愛国心のあるドワーフも研究費の投資を正面から否定することは出来ないか。現在もドヴェル共和国の食料自給率は低いままだ。これを改善することは急務であり、そのための研究と言われてしまえばなおのことだろう。
そして研究に予算がとられてしまえばそれだけドヴェル共和国も人間の国との戦争にかけることのできる予算も低くなってしまう。つまりは弱体化してしまうという事。『教会』からすれば研究が成功しようが失敗しようが、それがドヴェル共和国の弱体化につながるのならもろ手を挙げて歓迎することだろう。
仮に研究が上手くいき汚染された大地の浄化のめどが立ったとしよう。その研究成果を人間に渡すべきかそうでないか間違いなく揉める。しかし聞いた話では、すでにドヴェル共和国の中枢には人間に研究成果を渡すべきだと考えている者もそれなりにいる。彼らが結託すれば、その研究成果を盗み出し、人間の国家に提供することもそう難しい事でもないはずだ。
そうなってしまえば、数年後にはある程度国力の回復した人間の国家と戦うことになる。簡単に負けはしないだろうが、バックに『教会』がいることでこれまで以上の、長期間かつ難しい戦いになることが予想できる……!となると、もしかして………
「『教会』の人間と、『死の商人』…つまり、軍需品を生産、販売している組織が手を組んでいる可能性はありますか?」
「ほぅ。流石、いいところに目を付けるの」
「どういう意味だ?何故、そこで商人の話が出てくる?」
レオンが首をかしげながら問うてくる。こいつは獣人だからな、こういった大人の汚い話は得意ではないのか。




