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証拠を見せてくれ。そう言われてとりあえず擬態を解き、本来のスライム形態に戻る。グレイグさんが目を見開き、彼の腹心が口をあんぐりと開け広げている。手紙の内容を信用していなかったわけではないだろうが、実際に己の目で見るのとでは違うという事だろう。
「とりあえず、俺がスライムであることの証明をしたわけですが、有する特殊能力の一端をお見せしようと思います。これは実際に試してもらった方が速いと思いますが…」
「手紙にあった『寄生』という能力だな。儂にその能力を使ってくれ」
「いいんですか?あなたはそれなりの役職の方でしょう?代わりの方を用意した方がいいんじゃ…」
「問題ない、やってくれ。実際にお主の正体がスライムだったのだから、あの手紙の内容は間違いないという事じゃろう。だったら実際に、その能力を儂自身の体で試してみたいんじゃ」
「そういうことでしたら…分かりました」
そう許可を得て、グレイグさんに寄生する。寄生してすぐには身体能力の上昇が実感できていなかったのか、しきりに手や足を動かし違いについて実感しようとしていたようだが、広くない客間では試すのは難しいと感じたのか、レオン達の許可を得て建物の外に出て色々と体を動かし始めた。
広い場所で体を動かすことで俺の能力を実感することが出来始めたのだろう。武器庫に行き、歴戦の冒険者でも持つだけでも一苦労しそうな重厚な槍を持ち、広場でその槍を使った型の練習をし始める。
槍を振るごとにブオンブオンという重低音が周囲に鳴り響き、生じた風圧によって周りの草木が大きく揺れる。その異様な気配を感じたのか、いつの間にか周囲に人が集まり始めていたぐらいだ。ひとしきり動いて満足したのだろう、槍を元の場所に戻し客間に戻った。
客間ではグレイグさんの腹心が楽しげに会話をしており、こちらに気が付いた腹心さんが会話を止め、グレイグさんに話しかけてくる。
「将軍、いかがでした?」
「うむ、手紙の内容通りだった。おっと、ゼロ殿『寄生』を解いても構わんぞ」
許可を得たので寄生を解き、会話がしやすいように再び人間の姿に擬態する。つい興味が湧いてしまい、先程の槍さばきについて話を聞くことにした。
「流石ですね、グレイグ将軍。先ほどの動き、見事としか言いようがありませんでした。正直膂力だけなら、レオンですら勝ち目はないですよ」
レオンがちょっとムッとした表情をする。こいつ負けず嫌いなのか?しかしいくら獣人と言えど、腕力ではドワーフには勝てない事も仕方のないだろう。
「ふははは、ま、儂らドワーフはスピードでは獣人に手も足も出んからな、せめて腕力ぐらいは勝っておかんと立つ瀬がないわい」
「しかし、あの腕力は俺を『寄生』させていたとはいえ、尋常ではありませんでしたよ。やはりグレイグさんも昔は前線に出ておられたとか?」
「ええ、そうです!その通りです!グレイグ将軍はドワーフ軍でも指折りの実力者であり…」
と、いきなり会話に入ってきた腹心さん。彼が言うには、オーガの首を片手でへし折ったとか、部下の窮地を救うため単身オークの群れに突っ込んで群れを壊滅したとか…そういった武勇伝がこれでもか!というほどあるらしい。
多分この腹心さんはグレイグさんのファンなのだろうな、嬉々として話す彼を見れば説明されなくても分かってしまう。グレイグさん自身もこういった状況はすでに幾度となく繰り返した状況なのだろう、頭を押さえ大きくため息をついていた。
「おい、もういい加減にしろ、客人が困っておるじゃろう」
「す、すみません。つい、我を忘れてしまって…」
もしかしたら、俺達が客間に戻ってきたときも彼はレオン達に似た様な話をしていたのかもしれないな。彼が楽しげにしていたのは、自分が好きなことを話すことが出来ていたためか。後でレオン達に聞いてみ…るのも面倒そうなのでこの件はさっさと忘れることにしよう。
「ゴホン、さて、陛下からの手紙の内容が真実であったからな。おぬし等が儂らの協力者となってくれるというのも本当なのじゃろう。ま、初めからあまり疑ってはおらんかったがな。そこでじゃ、儂らもこの国が抱えておる問題を包み隠さず明かそうと思う」
いよいよ本題か。多分この話を聞けば途中で身を引くという事は出来ないだろう。問題ない。俺は、いや、俺達には進むという選択肢以外は無いのだからな。