表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/271

170

 「『アーミー・ローカスト』は単体だとそれほど恐ろしくは無いんです。見た目は体長15センチぐらいの大きな飛蝗ですね。戦闘力もほぼ皆無ですし、多分単体ならスライムですら簡単に倒すことが出来ると思われます」


 「それのどこが恐ろしいっていうんだ?」


 「先ほど言ったように単体だと恐ろしくはありませんが極稀に、特殊な条件がそろってしまうと、何十万、何百万もの大軍となって移動し、周囲一帯の植物を食い尽くしてしまうのです。そして食べ物が無くなってしまうと、今度は草木だけでなく動物や魔物までも襲い掛かり食してしまうのです」


 「分からないな、抵抗することのできない植物が食べられてしまうのは分かる。しかし抵抗することのできる魔物が、どうして戦闘力がほぼ皆無である『アーミー・ローカスト』に食べられてしまうのだ?簡単に返り討ちのされるのでは?」


 「数の暴力だそうです。手や足で叩くだけでも簡単に1匹や2匹は倒せますが、何十匹、何百匹を1度に殺すことは出来ませんからね。そうして手をこまねいている間に皮膚の弱い所や、口の隙間から体内に侵入し体の内と外から食い漁られてしまうそうです」


 「…想像するだけでも恐ろしい死に方の一つだな」


 「はい。そして皆様もお気づきでしょうがここは、かつてその『アーミー・ローカスト』の大軍が押し寄せた場所なのです。…大体100年ほど前の事でしょうか。当時は私も駆け出しの商人でしてね。あの大軍を見た時、私は死を覚悟しました」


 100年も前の事か。それを少し前のことを懐かしむように話す彼が、長命種であるエルフなのだと改めて実感させられる。ここで当然のように、ある疑問が頭をよぎる。


 「その『アーミー・ローカスト』の大軍はどうなったんだ?そして何故、100年も前の事なのに、未だにこの土地はやせ細ったままなんだ?」


 「皆様がご存じのように、すぐ近くの森には我らエルフの里があります。当時の里長が『アーミー・ローカスト』の大軍が迫っていることを知ると、すぐに援軍を要請しました。事態の緊急性、そして予想される被害から近隣の里や都市から援軍が来る頃には、里に甚大な被害が及んでいる可能もある。そう考えたエルフの国の上層部は、最初から最強戦力を派遣することを決定しました」


 「最強戦力?」


 「生ける伝説。神代の時代の体現者。ありとあらゆる魔法に精通し、その戦闘力はエルフ国の全兵士を相手にしてもなお余裕があると言われるほどの、まさに絶対なる超越者。エルフ国の国王陛下、その人です」


 なるほど、確かに彼なら転移の魔法が使えるため近隣の里から援軍が来るよりも、早く支援に行くことが出来るだろう。軍のように準備する時間すら必要ない。そして何よりも強いのだ、付き合いの短い俺ですらわかる。彼の身を案じて、戦いに出向かない方が良いと進言する方がむしろ、彼を侮っていると取られかねないほどに。


 「陛下がどのような魔法を使われたのかは存じませんが、私が再びこの場所に戻ってくる頃にはすべてが終わっており『アーミー・ローカスト』がいた証拠は、この草木の生えていない大地ぐらいでした。これですべてが元通りになる…そう思っていたのは本当に短い間でした」


 「草木を食べる『アーミー・ローカスト』がいなくなったにもかかわらず、草木が一向に生えてこなかった…という事か?」


 「はい。そのことに疑念を感じて調査したところ、どうやら『アーミー・ローカスト』は体で微量の毒を生成していたそうなんです。その毒が死体として、そして糞として大地に宿ってしまい、その毒がこの地を汚染してしまったんです」


 「なるほどな…ってもしかして、ドワーフの国に食料を輸出している理由って…」


 「御想像の通りです。『アーミー・ローカスト』の被害はドワーフの国だけでなく現在ドワーフの国と戦争をしている人間の国もその被害に逢っていました。無論すべての土地が汚染されたわけではありませんが、食料自給率は100年前よりも下がったままなんです。つまり、100年前の災害が未だに周辺国家を苦しめているのです」


 その話を聞くと、多少人間の国に同情しなくもない。100年前の『アーミー・ローカスト』の被害に加えて近年では頼みの綱であった鉱山すら枯れ果ててしまったのだ。


 地下資源が豊富にあり輸出入で国家を成り立たせることのできているドワーフの国とは違い、もはや地下資源も枯渇してしまった人間の国を無理に存続させる必要はないのではないかとも思う。いや、生まれ育った土地からそう簡単に離れることが出来るわけでもないか。それでもどこかで見切りをつけるべきだったのではないかとも思う。


 まぁいいか。俺がやることには変わりはない。ドワーフの国に味方して、人間の国にドワーフの国に進行できなくさせるだけの大打撃を与える、それだけだ。余計なことは考えないようにしよう。下手に同情してしまうと、仕事がやりにくくなりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ