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 時刻は正子を少し回ったぐらいか。夜番の班が二度ほど変わり、現在は銅級冒険者のパーティーが務めている。様子を観察すると皆寝ぼけ眼をこすりながらテントからのそのそと出て来ており、締まりのない顔をしている。冷える体を温めるためと言い訳をし、少量だが酒を飲んでいる者もいた。それを注意する者もいなかったことから、今までのパーティー以上に気が緩んでいることが容易に見て取れた。


 時間的にも、面子的にも襲撃するなら彼らがこの上ないチャンスだろう。すでにこの拠点近くまで接近しているジルに、いつでも襲撃できるように合図を送る。


 ただ、冒険者が油断してしまうのも仕方ないことだと思う。物資を貯蔵しているせいか、この拠点の周辺には鳴子を始めとして、その他様々な罠が仕掛けられているのだ。当然そのすべてが鳴子と連動されており、正しいルートを知らなければ物音ひとつ立てることなくこの拠点まで辿り着けるとは出来ないだろう。


 残念ながら俺はその正しいルートを知っている。拠点周辺に配置した眷属がその拠点を出入りする冒険者をくまなく監視し、その正しいルートの情報を入手したからだ。そしてすでにジルはそのルートを通って拠点近くの雑木林に身を隠している。後は、タイミングを図るだけ。


 しばらくすると、酒を飲んでいた冒険者の一人がトイレに行くといってその場を離れた。まずはこいつから狩ろう。冒険者たちが利用しているトイレ…というより物陰はジルが隠れ潜んでいる場所から比較的近い場所にあり、他の冒険者に見つかることなく移動できるはずだ。


 …よし、上手くいったようだ。少し距離はあるが、用を足している冒険者の背後をとることができた。そこからはあえて息を殺さず、堂々と近づくように伝える。ジルは盗賊のように気配を殺す術はないので、ある程度近づけば絶対に存在がばれてしまうことだろう。その時に、気配を隠そうとしていることに疑問を持たれるはずだ。近づききる前にゼルが見つかれば、仮にその冒険者を殺すことができても周囲に異変を知らされるだけの時間を与えてしまうかもしれない。そうなればこちらの敗北が決定したといってもいい。


 であるならば、むしろ堂々としていればかえって怪しまれることなく近づくことができるはずだ。普通に考えたら用を足しに来た他の冒険者と考えるはずだ。そしてその予想は正しく、手の届く範囲にまで近くに寄ることができた。酒が入っているためか、上機嫌に鼻歌まで歌っていた。それが辞世の歌になるとも知らずにな。


 「~♪ふぅ、スッキリした。悪りぃな待たせちまっ……」


 振り向きざまに、16番がその冒険者の顔面に張り付く。これで大声で助けを呼ばれることはなくなり、断末魔を周囲に聞かれることもない。あらかじめ取り決めていた通り、ジルは即座に自身の持つ人の背丈ほどもある大きな剣をその冒険者の心臓に突き刺した。


 しばらくはビクンビクンと動いていた体も次第に動かなくなり、16番に経験値が入ったことが伝わってきた。かつて冒険者から聞いた通り、実際に手を下さなくてもその討伐に協力していれば経験値を入手できるという話は本当であったようだ。ジルも経験値を入手したのだろう、満足そうに何度も頷いている。


 まずは一人。こいつらのパーティーのメンバーは4人いて、残りの3人は拠点中央にある焚火の周りを囲むようにして談笑している。定石ではあるが、こういったとき初めに狙うのはリーダーだろう。


ジルには拠点の中央からは死角になっているが、ある程度近い場所にまで移動してもらい、中央付近に待機させている眷属に冒険者たちにスキを作るように指示を送った。




 「ベルンの奴遅ぇな。どこで道草食って…って食う場所なんかねぇか。その辺で倒れてそのまま寝てんじゃねぇだろうな。結構な量の酒飲んでやがったし」


 「あいつのことだから、それもありそうっスね。ってかリーダー、ベルンの奴にちょっと甘くないっスか?あんなに酒飲んでても注意すらしないし」


 「仕方ないだろ。確かにこのパーティーのリーダーは俺だが、ベルンの方が年齢も実力も上なんだから。経験に裏付けされた、いざという時の対応力も高い。協調性のなさを除けばあいつがリーダーやった方がいいとさえ思っているんだ。そんな奴に注意なんて簡単にはできん。それにベルンの気持ちもわからんでもないしな。これだけ捜索しているのに手掛かり一つ出てこないんだ。酒でも飲まなきゃやってられんよ」


 「でも、そのせいで銀級冒険者のラグナさんに目ぇつけられるのはちょっといただけないですよね。聞いた話なんですけど、例のオーガに襲撃された村の一つがラグナさんの故郷だったようなんですよ」


 「マジか。だからあの人やたらピリピリしてたのか。はぁ、仕方ない。気は進まないがせめてこの依頼の間だけでもベルンの奴に禁酒を言い渡しておくか。流石にこれ以上ここの空気を悪くしたくないからな。…俺の方が酒に逃げたくなっちまうぜ」


 「おつかれさまっス、リーダー。まぁこのままオーガは出なくても規定の報酬分はもらえますから、それでぱ~っと飲みに行きましょう。もちろんリーダーの奢りで」


 「アホか、割り勘に決まってんだろっガッボガ……」


 「!?リーダー!って何でスライむ……」


 よし、上手くいった。まずは眷属スライムがタイミングを見てリーダーさんの顔面に飛び掛かり、鼻と口をふさいだ。それを見て慌てる他のメンバー達は周囲への警戒を怠ってしまったため、その隙にジルが飛び出して背後から残りの2人の首を一太刀で切り飛ばした。その後リーダーの心臓に一突き。


 胴体から首を切り離され、驚愕の表情を浮かべる2人のメンバー。顔面にスライムが張り付き、心臓を貫かれてもなお、何とか助けを呼ぼうとしているリーダーさん。残念ながら君たちの冒険はここで終わりなのだ。


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