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「やぁ、久しぶりだねゼロ。元気にしていたかな?色々と報告は聞いているよ、なかなか頑張ってくれたようじゃないか。それと…そこにいる獣人達と君の眷属は、ローゼリアからの報告にあった、君と一緒にドワーフの国、ドヴェル共和国に行くメンバーと言うことであっているのかな?」
「ええ、お久しぶりです。頑張ったとは言っても、自分で蒔いた種の後片付けをしただけですからね。途中で自分がした仕事投げ出すのはどうも…後になって気になってしまいそうですし。それとアーロン様のおっしゃる通り、ここにいるのは俺と一緒にドワーフの国に行ってもう予定のメンバーです」
「えっと…お初にお目にかかり「そう言うのはいいから、もっとフランクに頼むよ」…分かりました。初めましてアーロン様、獣人族のレオンと言います。それと、俺もこいつらと一緒にドワーフの国に支援に行く予定です」
そう言ってレオンの後ろに控えている獣人を紹介する。人数は全部で10人。(俺の眷属は自己紹介を省略した)解放軍でも中心的であったメンバーで占められており、戦力的にはかなり頼もしいといえる。
「うんうん、初めましてレオン。そして獣人族の諸君。本当なら交友を深めたいところではあるんだけど、この後ちょっと用事があってね。あんまりのんびりとしていられないんだ」
だったらわざわざ別れのあいさつに来なくていいのに…彼が来ると緊張のあまり胃は無いけどお腹の辺りがキュゥゥッとなるのだ。だから、ほんの少しだけそう思った。アーロン様の姿を崇め奉る様に拝謁している里のお偉方を前に、そんなこと口に出して言えるはずもないが。
「だからここに来た目的を果たそうと思ってね。君たちはもう、ドワーフの国に行くための準備は終わっているのかな?」
「勿論です。アーロン様との謁見が終わり次第、出発しようと思っていました」
「それは良かった。じつは君たちに同胞を助けてもらった借りを少しでも返すために、君たちをドワーフの国に一番近い場所にあるエルフの里まで転送してあげようと思っていたんだ」
そう言うや否や、俺たちの足元に魔法陣の様なものが展開された。「様なもの」と言ったのは元来魔法陣とは、数名のマジックキャスターが大規模な魔法を発動させる際に特殊な道具を用いて長い時間をかけて構築していくものであり、こんな片手間で発動できるものではないからだ。
俺が知る魔法陣とは多少の違いはあるだろうがやはり、かなり規格外な人物だ。そう思う頃には目の前の光景がすっかりと変わってしまっていた。
「うむ、初めましてだな。儂はこの里の長であるゴードンだ。へい…ではなく、アーロン様から話は聞いておる。とりあえず儂の屋敷まで案内しよう。その後でドワーフの国に行く行商人を紹介させてもらう」
転送してもらった手前こんなことを考えるのも恩知らずかもしれないが、正直説明ぐらいしてくれた後に転送してくれ…そう思わずにはいられなかった。まぁ、昨日のうちに親しくなったエルフ達と別れの言葉を交わしているし、いざとなればあの里には眷属もいるので念話も使える。大した問題もないか。
里長のゴードンの住む屋敷はローゼリア様の屋敷と遜色ないくらい大きく立派であり、通された客間には見事な調度品で飾られていた。精巧な作りだ。多分これがドワーフ製なのだろう。噂に違わぬ品々だった。
そこでドワーフの国が置かれた状況について詳しく聞くことが出来た。と言っても、アーロン様から聞いた内容とほとんど同じであり、多少近況が付け加えられた程度だった。
「遅くなって申し訳ありません、行商人のリースです」
ほどなくして俺達の案内人となる行商人もこの場所にやってきた。丁寧な自己紹介とは裏腹に俺達を見定めようとしている。ある程度の事情は聞かされてはいるだろうが、無条件にこちらを信用してくるお人よしではないことに頼もしさを感じる。
現場を知る彼からも話を聞きたいとも思ったが、翌日の行商のための準備が残っているということで自己紹介もそこそこに早々に帰ってもらった。あくまでも俺達の案内はオマケ。彼に無理をさせるわけにもいかないし、道中に聞けばよいと判断しての事だ。
ここから目的地であるドヴェル共和国の都市まで最低でも2週間はかかるそうだ。こちらの準備はここに転送される前に終わっている。里長の屋敷の客室に案内されて翌日まで休むことにした。