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モコナを殺して1カ月がたった。領主代行として頑張っているモキドは代行の仕事をそつなくこなしているようで、今のところ目立った問題は起きてはいない。そして先日、ランジェルド王国の王都で文官として働いていたモキドの息子が、マリスレイブに呼び戻されていた。
恐らくは、父親であるモキドから「領主」としての仕事を学ぶためなんじゃないかと思っている。次代の伯爵家の当主として鍛えるつもりなのだろう。つまりモコナが戻ってくることは無いと判断したのか、それとも戻ってくる場所を無くすためにそうしたのか。
噂ではキレ者という印象は無いが、父親同様、堅実な仕事をこなすことが出来る人格らしく心ある家臣達からの反応は上々と言った感じらしい。
ちなみにモキドはその堅実な仕事ぶりで、今まで好き勝手にしていた家老達も次第に身動きが出来なくなっていったらしく、早晩マリアーベ伯爵家の混乱は収束されると予想された。
その政策の一環でマリアーベ伯爵家は教会と手を切る…とまではいかないが、先代であるモコナほどの強い繋がりは維持しないという方針で進めているそうだ。
まぁ、モコナの教会との癒着を示す数々の証拠は彼の書斎に雑に片付けられていたため、モキドがそれを発見し、教会主導で「亜人の奴隷化計画」を推し進めていたという事実を彼が知るのはそう難しいことではないはずだ。
そうなると当然モキドからすれば教会の存在は決して心許せる存在ではない。マリアーベ伯爵家の力を落とす原因の一端が教会にもあったのだから。
本当なら手を切りたいところではありそうだが、教会はケガや病気の治療を行っているのでそうすることは出来ない。…それがあるから「教会」も各地でかなり好き勝手が出来るのだろうな。
その一環として、モコナと教会との連絡役を担っていた役人を処刑し、モコナの推し進めていた「亜人の奴隷化計画」を失策であったと公表し市民に謝罪していた。これは教会に対する警告だろう。あまりマリスレイブで好き勝手なことをするな、というな。
教会側もそのメッセージを受け取ったのか、今は以前ほど積極的に動いている様子は見られ無くなった。
これでこの周辺に住む亜人に迫る危険は間違いなく小さくなっただろう。少しばかり予定とは違ったが、望む展開になり一安心だ。
「あの…マジクさん、本当にこの都市を出ていかれるんですか?」
「ええ、知り合いに頼まれていたことが無事に終わりましたからね。本当はもう少し早くこの都市を出るつもりでしたが、流石にあれほど混乱状態にあった状況ではそうもいかなかったので。幸い他方からの冒険者の応援もあって復興も順調に進んでいるようなので、当初の予定通り、この都市を出ようかと思います」
「そうですか…マジクさんの様な腕のいい冒険者に去られてしまうと、当ギルドからしても損失は大きいですが止めることも出来ませんからね。大変な時期に色々と骨を折ってもらい、ありがとうございました」
その原因を作ったのが俺だから少々居たたまれない気持ちにもなるが、そもそもの原因はモコナと教会にある。俺は…いや、俺達はやり返しただけ。恨むならその二者を恨んでくれ。
冒険者ギルドの建物を出て城壁を抜け、エルフの里のある森の中に向かう。
昨日ローゼリア様を通して連絡があった。俺の眷属なら誰でも使うことのできる『念話』がエルフ本国でも非常に重要視され、緊急時の連絡用としてエルフの国にある大きな都市や人里離れた地域に1体ずつ配備することが正式に決まったのだ。
残念ながらすべての地域に配備できるほどの眷属の数はいないが、これから少しずつ時間をかけて配備するということになった。その為には眷属を増やす、つまり俺達の位階の上昇が必須となるが、そちらの方にも協力してくれるということになり今回の一件で俺は間違いなく復讐に近づくことが出来たと言えた。
他にも特殊な進化をした個体の適正を調べられ、能力にあった場所に配置されるという至れり尽くせりの待遇であり、更なる経験値入手が見込まれている。
あまりの待遇の良さに少しばかし委縮してしまったが、被害なく最上の結果を出したことを評価しての事だと言われ素直に受け入れることにした。その為、足取り軽くエルフの里まで向かうことができた。




