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それからはエルフの国からの連絡を待つ日々が続いていた。俺の眷属は畑仕事の手伝いから老人たちの暇つぶしの会話の相手など、あらゆる仕事をこなしていた。
一見、老人の会話の相手など意味をなさないような行為でも、会話の中に思いがけないような重要な情報も紛れ込んでおり、なかなかやりがいのある仕事であると感じている眷属もいるらしい。眷属の数もかなり多くなった、そういった変わった奴もいるものだと感嘆し、眷属の中で多様性が生まれたことが嬉しくもあった。
順調にいっていると喜んでいたが、そんなある日事件が起きた。俺の眷属のうちの一体が殺されてしまったのだ。殺したのはユニークモンスターの脅威を感じた冒険者…ではなく、通りすがりのオークである。
殺された眷属はサルカの森の探索をさせていた個体であり、探索に夢中になるあまり周囲の様子を窺うことが疎かになってしまい、運悪く出くわしたオークに核を踏みつぶされてしまったのだ。
スライムだから他のモンスターから襲われる心配は無い、そういった油断が今回の結果につながってしまったのだろう。今まで一切の犠牲を出さずにここまで来たというのに、こんなことになってしまうとは非常に残念だった。
ただ不思議なことに、殺された眷属とのパスは依然として顕在していたのだ。そのパスを通じて念話を送っても反応は無い。どうせ今は、これと言ってやることもないので気のすむまでとことん調べることにした。
そして調査を開始して3日、俺の想定よりも早く結果が出た。
『いや~、まさか復活できるとは思ってもみなかった。流石はボス、お手数をお掛けして申し訳ない』
『俺もこの結果に驚いているよ。まさか繋がったままのパスを意識して眷属を作ったら、殺されたお前の意識が新しい眷属に宿ったんだからな』
と、いった感じで殺された眷属が新しい体を得て復活してしまったという事だ。残念ながら殺される前までに獲得していた経験値は失われてしまったようだが、スライムとして積んだ経験はこの眷属に記憶として残っている。それは間違いなく経験値に勝るとも劣らない大事なものだろう。
『…ってことはですよ、ボス。ボスさえ無事なら眷属である俺達は無限に復活が出来るってことじゃないですか。つまりボスはエルフの国に身を寄せて自身の身の安全を確保して、眷属が復讐を成し遂げる…その方が確実に復讐を成し遂げることが出来るんじゃないかって思うんですよね』
『うんうん、お前の言うことはもっともだ。では早速…って行くわけないだろ!どうせお前、お前自身の手でギャバンの奴に復讐したいからそう言ってんだろ』
『バレちゃいましたか』
『当たり前だ、お前も俺なんだぞ。そんな見え透いた罠に引っ掛かるわけが無いだろ。安心しろ、ギャバンの奴は簡単には殺さない。ありとあらゆる苦痛を与えた後でなければな。眷属達も皆納得するような、そんな方法で復讐をするつもりだから安心しろ。というか、眷属達も何らかの形で関わることが出来る…そんな方法を模索中だ』
今の俺の眷属は千を超えている。孫眷属を加えればその倍は固い。そのすべての眷属をギャバンを痛めつけることに加担させるというのは、とんでもない苦痛を与えることが出来るはずだ。考えるだけでワクワクしてくる。
ギャバンにどのような仕打ちをしたいのかと言う話で一頻り盛り上がった後、ふと気になったことを聞いてみることにした。
『そういえば、お前が体を失っていた間の記憶とか意識とかどうなっているんだ?』
『意識も記憶も普通に有りましたよ。ボスの体に憑りついていた、そんな感じですね』
つまりこの3日間俺がこの眷属と行動を共にしていた、そんな感覚であったらしい。ただ自分の意志で動くことは出来なかったので、再び自分の意志で動かせることのできる肉体を取り戻せたことがすごく嬉しいと俺に語ってきた。
『殺されたことは不本意ではありますが、今回の件で色々と学びましたからね。他の眷属にもそれを伝えて、再発防止に努める…それが俺の役目だと思っています』
失った経験値を取り戻すことは出来ないが、得難い経験は得ることが出来た。今回の一件も間違いなく俺にとってプラスとなる事だろう。