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 『索敵』を使うと、モコナが1人で寝室に来たことが判明した。まさか初日から絶好のチャンスが訪れえるとは、日頃の行いの良さが自分に帰ってきたという事か。俺がやってきたことは人間側からすれば悪であるといえるが、亜人側からすれば間違いなく英雄的な行動だからな。


 ベッドの下から触手を出し、ベッドの上で横になっているモコナを観察する。どうやら今は読書の時間の様だ。もうしばらくは今の状態が続きそうだな。起きている状態でも殺すことはわけないが、出来れば眠っている状態で殺した方が万が一という事態も避けられるだろう。もうしばらく様子を見ることにする。




 更に1時間ほど待機してようやくモコナの寝息が聞こえ始めた。長かったが、待った甲斐はあったと思う。俺はモコナが起きないよう、ゆっくりとベッドの上に身を乗り出す。


 さらばモコナ、そしてありがとう。君のおかげで俺はエルフと獣人から信用と信頼、そして多くの経験値を得ることが出来た。これだけのことをしてもらったのだ。その感謝の意味を込めて、できるだけ苦しまないよう殺してやろう。


 俺は触手を細く形成し、モコナの口中から体内に侵入する。触手の先からポイズン・スライムから入手した能力で毒を生成。これは直接体内に吸収させることで、まるで眠るように死ぬことが出来る逸品だ。能力習熟の鍛錬の一環で作り出したが、こんなに早く使う機会が訪れるとは思わなかった。


 ほどなくして、先度まで規則正しい寝息を立てていたモコナの呼吸がゆっくりと止まる。脈を確認し、彼が死んでいることを確認。準備には時間をかけたが、いざことが始まると終わるまではあっという間だったな。


 さて、モコナの遺体をどうするか。吸収しても大した経験値を得られないのは、殺した時に得られた経験値の量から見ても間違いない。このまま放置するのが…いや、どうせなら『同化』して、こいつの持つ記憶を入手することにするか。


 この都市での活動はほとんど終えたためモコナの持つ知識がそれほど役に立つとは思えないが、有益な情報の一つでも持っていたら儲けものだ。


 夜明けには使用人がこの部屋に来るだろうが、モコナの姿に擬態して適当な理由を付けて追い払い、折をみて屋敷から逃げ出すことにしよう。


 さてと、それじゃぁ早速『同化』っと。早速記憶を探ると…うーん、出るわ出るわ、モコナのこれまでの悪事の数々が。まさか先代の当主である兄貴を殺したとは思ってもみなかった。


 別に先代と仲が悪かったというわけでもなかったんだが、先代に跡継ぎがいないことで自分にもチャンスがあると思ってしまったか。ただ、記憶を見るにモコナだけが悪いとも言い切れないな。そこに「教会」の人間が絡んでいたのだから。


 恐らくモコナは「教会」の人間に体よく操られていたんだろう。モコナ本人は気が付いていない様だが、彼の記憶を覗き見て客観的に判断できる俺だから分かったことではあるが。


 マリスレイブ近郊には昔から多くの亜人が住んでいた。エルフの里を始め、獣人達の村々がそうだ。そこに目を付けたのが「教会」の関係者と言う事だ。崇高なる人間様の近くに、薄汚い亜人が居を構えているということが耐えられなかったのだろうな。まぁ、エルフに関しては人間よりも先にこの地に住んでいたんだが。


 しかしマリアーベ伯爵家の歴代の当主はこれを排除するでもなく、むしろ比較的友好的な関係を築いてきた。それは当然先代にも言えることだった。


 それは「教会」の人間からすれば面白くないことだったのだ。と、いうことで、自分たちにとって都合の良い、簡単に操ることのできそうなモコナをマリアーベ伯爵家の当主に据えるように動いたわけか。


 優秀な兄に劣等感を抱く弟の野心に火をつけることなど、狡猾な「教会」関係者からすればわけない事だっただろう。モコナも多少は渋ったらしいが、「亜人の奴隷の売買による経済の活性化」というエサをチラつかされ、あっという間に懐柔されたというわけだ。


 モコナも当初はお膳立てされていたことでやることなすことすべてが上手く行き、有頂天になっていた。俺から見れば「教会」の傀儡に過ぎないのだが。


 それも亜人に対する同情から来る市民感情の悪化により、奴隷売買に陰りが見え始めると両者の仲次第にが悪化していく。先日の俺達の襲撃により両者の仲が完全にこじれてしまったようだ。


 それもモコナの完全な言いがかりの様なものだからな、「教会」に多少同情もしないことも…いや、しないな。元々の原因はこいつらなのだから。


 「教会」の後ろ盾を無くし、それでも色々と頑張ってはいたようだが家老にはいいようにされ、これまで経済の活性化という成果で築き上げてきた人気も叔父のモキドに持っていかれかけている。これまで「教会」におんぶにだっこだったしわ寄せが来たという事だろう。


 ちなみに先代は毒殺であった。モコナが隙を見て先代の食事に少しずつ毒物を仕込み、日ごとに体調が悪くなっていくように仕掛けたというわけだ。その毒物も「教会」が用意したものであり、死因が判明しにくい毒物を特別に調薬したというわけだ。まさか自分が殺した先代と同じ方法で殺されるとは思ってなかっただろう。殺した俺が言うのもなんだが、まさに因果応報だな。

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