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「お疲れさん。それで、オーガの奴は見つかったか…ってその表情からすると今日もダメみたいだったようだな。まったく、どこに行きやがったのか」
「それが分かれば苦労はしねーよ。つか、そんなこと聞くってことは、そちらさんもダメだったみたいだな」
「まぁな。いくら探しても見つかるのはスライムかゴブリンくらいだ。ホントにこの辺りにオーガが潜伏しているの疑わしくなっちまうぜ」
「一応メイビスさんはその可能性が高いって言っていたけど、ここまで何の手がかりもないんじゃどうしようもねーよ。ただうちのリーダーがオーガ探すのにかなり躍起になっているから、めったなことは言えないんだ」
「そういや、お前さんとこのリーダーって確か…」
「今回襲撃された村の一つが、うちのリーダーの故郷だったんだよ。知り合いも何人かやられちまったらしい。だからかなり気合入れてこの依頼に挑んでいるんだが、ここまで何の手がかりもないもんだからかなりピリピリしてんだよ。余計に気が滅入っちまうぜ」
「そりゃ、苦労が絶えんな。その点うちは完全に依頼料目当てだから、正直このままオーガが出てこなくても既定の報酬はもらえるから空気が悪くないだけお前さんとこより大分ましかな。大きい声では言えんが、むしろこのまま見つからないほうが余計な危険がなくて安心でもある…と、世間話もこの辺にして飯に行こうぜ。支援組が近くの町から物資を集めてきたから、今日の夕飯はちょっとリッチになるそうだぜ」
「おっ、そりゃ嬉しい知らせだな。ところでずっと気になっていたんだが、何で拠点の中央にスライムがいるんだ?確かにごみを処理するのにスライムは必要かもしれないけど、まだそこまで溜まってないだろ」
「どうやら拠点の周りに仕掛けてあった鳴子に引っかかっていたらしくてな。助けたらなんかそのまま後付けられて、拠点にまで来ちまったらしい。まぁ邪魔になるわけでもないし、ゴミも逐次消化してくれたほうがより衛生的ってことで、特に追い払われることもなく、そのまま居ついているんだ」
…感度は良好。スライム細胞を聴覚に全振りしているから、少し離れた冒険者の会話もばっちり盗み聞きできている。正直冒険者たちの拠点に侵入できるとは思っていなかったが、眷属のうちの一体が『いける!絶対にいける!』って自信満々に主張するもんだから、根負けして許可したらまさか本当に成功してしまうとは。
ただ、その代償としてあいつは冒険者たちの出すごみを吸収せざるを得ない状況になってしまったのは少々同情してしまう。上の味を知ってしまった俺たちじゃ、その辺のゴミは俺たちにとってもゴミみたいなもんだからな。そのうち経験値を優先的に与えるとかして、彼の功績に報いてあげようと思う。
まぁ、彼の尊い?犠牲のおかげで入手できる情報は飛躍的に多くなった。ここは冒険者たちが用意した3つある拠点のうちの一つで、森の奥深い場所に作られてある、オーガ討伐の主戦力となる金級冒険者のパーティーがいる拠点を支援することに重点に置いている。
その為、この拠点にいる冒険者の人数の割には物資が多く貯蔵されており、拠点が少し広く作られていることが分かった。広い拠点ということはそれだけ死角も多くなるということでもある。それをカバーするための鳴子だったのだろう。かなり広範囲に敷かれていたが、種の割れてしまった罠など怖くはないのだ。
日が暮れ、夕食を終えた冒険者たちが次々と自分たちのテントに戻っていく。いまだ拠点の中央近くに残っているは、夜番の人たちなのだろう。ただ、警戒といってもここ何日も異常がなかったためか、あまりやる気が感じられなかった。
話を聞けば愚痴ばかりが聞こえてくる。オーガの捜索があまり上手くいっていないのも原因だろうが、どうやらそれだけではないようだった。大人数が一か所に集まって生活しているのだ、当然馬の合う人もいれば合わない人もいる。そしてオーガが見つからないことに腹立たしい思いをしている人もいれば、このまま見つからなくても構わないと思っている人もいる。
皆、いい大人であるためやたらめったら周囲に当たり散らすような人はいないが、それでも多少の言い争いや小競り合いは食事の間でもまま見られた。その小さなことの積み重ねが今の悪い空気を生み出してしまったのだろう。
これで多少なりともオーガ発見の手掛かりを見つけることができていれば皆協力し、一致団結して事に当たることもできたのだろうが、今のところは手掛かりどころかオーガのいたという痕跡一つ見つけることができていない状況だ。これでは団結することなど不可能であろう。
正直、金級冒険者が派遣されて捜索範囲が広まったことで勝手に冒険者たちの士気が高くなったと思っていたが、どうやら同じ冒険者同士でもかなりの温度差があるように感じられた。これは嬉しい誤算だ。
早速夜襲を仕掛けて…と言いたいところではあるが、まだ食事を終えたばかりであるためまだ多くの冒険者は起きているかもしれない。もう少し、夜が深まってから襲撃するとするか。