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 「そういやゼノンの奴、今回の襲撃の前に麒麟の討伐依頼を受領していたらしいが、もしかしたらその依頼を持ってきたやつが、襲撃者と何らかのつながりがあるんじゃないかって噂を聞いたことがある。マジクさんは何か聞いてないか?」


 「う~ん、ギルドの受付嬢の話だとその辺りの情報はまだ不明な点が多いからって、詳しいことは聞いていないんだ。ただ、燃えた奴隷商館の中にその依頼を持ってきた依頼人と同じような背格好をしている焼けこげた人が、ギルドが発行した半券を大事そうに持っていたらしい」


 当然だが、それは俺が獣人に頼んでやってもらった裏工作の一つだ。同じような背格好の人間なんていくらでもいるし、多少雰囲気が違ったとしても、焼けた遺体からその違いに気が付けるはずもないだろう。


 「まさか襲撃者の一人…ってこともないだろうし、普通に考えたら奴隷商の関係者だったってことか。獣人の奴隷を連れていた理由はそれでつくしな。いや、そう思わせるために、襲撃者が似たような背格好の人間の近くに半券を置いていっただけなのかもしれないのか…」


 「どのみち、今の段階じゃ情報が少なすぎるからな。ま、不確かな情報に流されないのが大事だろう」


 「違いない。ちなみにマジクさんは今後の身の振り方は何か考えているのか?上位の冒険者の多くが被害を受けて、難易度の高い依頼を受領できる冒険者が少ないって聞いたが。そのしわ寄せが来るんじゃないのか?」


 「個人的には、彼らの穴を埋めてやる!って、熱血漢でもないしな。ほどほどがいいんだが、状況がそうも言ってられないみたいだし…まぁ、無理のない範囲で頑張るつもりではあるけど、俺1人が頑張ってもたかが知れているだろうしな」


 飲み会もそこそこにダクエル達と別れることにした。ちなみに彼らは地域密着型の冒険者であり、メンバー各員この都市に持ち家があるらしい。そのため襲撃時は全員が集まるのに他の冒険者パーティーより時間がかかり、現場に駆け付けた頃にはすべてが終わった後だったらしい。


 都市を守る冒険者としてはよろしくないかもしれないが、結局のところ冒険者稼業は命あっての物種だ。パーティー全員が無事であって良かったと、飲み会の途中でダクエルがポロリとこぼしていたことが印象に残った。


 その日は冒険者ご用達の宿に宿泊し翌日に備えることにした。




 明けて翌日。宿を出た俺は適当な路地裏に入り、人目が無いことを確認し地味な見た目の青年に擬態する。襲撃現場に赴いて調査をするつもりだ。マジク形態でしないのは万一のことを考えての事である。


 商業区画に向かう途中、大通り沿いの暇そうにしている店先の店主に店の商品を買うついでに話を聞いた。正確に言えば店の商品を買うことこそがおまけではあるが。それだけの対価を払ってでも現地の生の声と言うのは重要だ。


 内容は今回の襲撃事件について。犯人はどういった組織であるかとか、亜人が犯人であると噂されているがその件についてどう思うかとかである。世間話を装って、怪しまれないように話を聞き出すのはなかなかに骨が折れる。


 聞いていて意外だったのは、襲撃者についてそれほど悪感情を持っていなかったという事だった。まぁ原因は被害を受けたのは奴隷商と一部の金持ちの商館だけであり、そこは一般人にはあまり馴染みのない場所であったからだろう。もしかしたら、金持ちに対する僻みもあったのかもしれない。


 襲撃者が亜人であるかもしれないという噂に関しても、ドミネイト・スライムの情報工作が上手くいっているためか、加害者である奴隷商が被害者である亜人が犯人なら因果応報、致し方ないことでは?という意見が意外にも多かった。


 やはり、関係のない建物に一切の被害が出ないよう細心の注意を払ったのは間違いではなかったと確信できた。


 調査をしながらと言う事もあり、移動には時間がかかったが昼前には目的地に到着した。綺麗に燃えた奴隷商館が見える。ちなみに職員の多くは殺したが、奴隷の収容施設は襲撃せず人間の奴隷を害することはしなかった。撤退までは時間との勝負であるため、無駄な時間を浪費したくなかったためだ。


 そのためその生き残った奴隷は他所に移送させられたわけだが、移送先と言うのが今回の襲撃で被害が無かった、つまり亜人の奴隷を販売していなかった奴隷商館であるわけだが、この都市の奴隷商館の多くが亜人を販売していため無事だった奴隷商館が少なく、現在はどこも定員一杯な状況らしい。これまで亜人の販売をせず、まじめに働いて来た奴隷商人が大儲けできる姿が目に浮かぶ。


 そんなことを考えつつ奴隷商館跡を見ると後片付けをしている幾人かの人が見える。顔に見覚えが無い…つまりは奴隷商の職員ではない、他所から雇われた作業員と言ったところか。大した情報も持っていないだろうが彼らからも話を聞くことにする。




 やはりと言うべきか、重要そうな情報は持っていなかったがそれは想定道理だった。ただ、話の流れで奴隷商の奴隷に対する扱いが非常に悪かったとか、今回の襲撃はマリアーベ伯爵の失策のせいであるという噂が流れていることをそれとなく伝えておいた。


 そうすれば彼らもまた、伝え聞いた話としてこのことを知人や家族たちに伝えるだろう。そうなれば、いずれは伯爵に対する市民からの不満も高まり大きな混乱へと…は、多少俺の願望も含まれているが、そうなったらいいなとは思っている。何ごとも小さいことの積み重ねだ。


 さて、調査も簡単に終わり時間に余裕が出来てしまった。情報工作はドミネイト・スライムに一任しているし、まだ噂が広まっていない状況で俺が動いたら、本体である俺が注目を浴びてしまう事になるかもしれない。当然そういった工作をするときは擬態をするようにしているが、どんなところでポカをやらかすかは分からないので下手に動くことはしないでおく。


 …よし、冒険者ギルドも人手が足りないという事らしいので、適当な依頼でも受けるとするか。ギルドの機嫌を取っておけば、重要な情報を渡してくれるかもしれないからな。


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