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「それで君は眷属をエルフの里に配置して経験値を得たいとのことだけど、どのような眷属を配置するつもりなのかな?今回大活躍したというパラサイト・スライムとか?」
「パラサイト・スライムは寄生主の身体能力を強化することは出来ますが、魔法攻撃力を強化することは出来ません。よって、魔法主体で戦うエルフとは相性が悪いということで除外させてもらいました。こちらの予定としましては、索敵能力に特化したサーチ・スライム。そしてインセクト・スライムになります」
「インセクト・スライム?聞いたことが無い名前だね。どういった能力を持っているんだい?」
「今朝がた新しく進化した、特殊な能力を持ったスライムです。有する能力は体から特殊なフェロモンを散布して、匂いで昆虫を誘引しそれを捕します」
「それは…戦闘にはあまり向きそうにない能力だけど、農家さんからすればとても重宝されそうな能力だね」
「自分もそう思います。『精霊樹』の世話を任せていた眷属がこの種に進化しました。恐らくは世話をする過程で、たくさんの害虫を倒したためそのような能力を得てしまったのかと」
俺がオールで祝賀会を楽しんでいたころ、エルフに集めてもらった魔物の遺体を夜通し吸収し、今朝進化したばかりの新しい種のスライムだ。進化したのがよほど嬉しかったのだろう、すでに能力の解析もしていた。
「なるほど。話では聞いていたけど、非常に興味深いね。スライムという種に色々と実験してみたくなるよ」
「今はまだただの小型の昆虫程度しか誘引できませんが、位階が上がれば、もしかしたら昆虫タイプの魔物も誘引できるようになるかもしれません」
「つまり、今回その里を襲撃した『タイラント・ビートル』のように本能のみで動く、『精霊樹』の結界と相性の悪い昆虫タイプの魔物が相手でも、上手くすればエルフに有利な場所で戦うことが出来るようになるかもしれない。それが叶えばエルフにとって、とても有益な存在に成る、そう言いたいんだね?」
「御明察の通りです。まぁ、あくまでも願望ではありますが。ですがエルフの方々にとっても十分検証してみる価値はあると思われます。仮にそれほどの力を得なかったとしても…農家さんの生産量の向上には寄与できると思いおますよ」
「うん、非常に分かりやすい提案だった。これだけの事をしてもらうわけだけど、報酬は魔物の遺体で十分なのかい?少し謙虚過ぎないか?」
「でしたら…エルフの里でとれた野菜や果物などを分けて頂きたいです。昨日この里でとれた野菜を食べたのですが、魔力が豊富でとても美味しかったものでして。眷属の喜ぶと思います」
「うん、その位なら全然問題ないね。とりあえずさ、何体か連れて帰るからここに呼んでくれない?エルフの国での運用実績があれば、各里でも運用することに抵抗が無くなるだろうしさ」
「連れて…帰る?一体どういう意味ですか?」
「ん?いや、そのままの意味…ああ、そういうことか。君は、今君の目の前にいる僕が『思念体』だと思っていたわけだね。残念ながらそれは違うんだ。今君の目の前にいるのは間違いなく僕本体なのさ。『転移』の魔法を使ってここに来たんだよ」
『転移』の魔法…聞いたことがある。空間を飛び越え、瞬時に移動することが出来る魔法だ。恐らくは魔法の知識があまりない者でも名前ぐらいは知っている、最もポピュラーな魔法の一つだ。高い知名度を誇る反面使用者は聞いたことが無い、おとぎ話にのみ登場する魔法だ。
それを使用できることを誇るわけでもなく、話の流れとしてさらりと流す…決して油断できる相手ではないことは分かっていたが、俺の想像のはるか上を行く実力者なのだと改めて理解させられる。
「眷属の方は呼べばすぐに来ると思います。……念話を使って呼びましたので、しばらくすれば来るかと」
「仕事が速いね。それと今回の君に働いてもらったことに関して、僕からも何らかの形で感謝の気持ちを伝えたいと思うんだけど、何か欲しい物でもある?」
「欲しいものは…特にはないですね。ただ…今のままでは自分が思い描く復讐は出来ないので、もっと強くなりたいです。経験値を得る機会を頂ければ」
「エルフの国には『世界樹』を狙う人間とか魔物とかがよく襲撃してくるから、それらの遺体を君の眷属にあげることにしよう。こちらとしても、処分する手間が減って大助かりだしね。それと…そうだね、もし君が良いというなら『ドワーフの国』に行ってみないか?」
どうやら面倒ごとの様だ。それでも経験値を得る機会があるなら、積極的に行動しようと思った。




