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「ほら、皆も立って立って。そんな傅かなくてもいいんだよ。今回はあくまでも非公式の場。ってゆうか、僕は自分の身分を明かしていないんだ。君たちは僕の正体を知らないって体なら問題ないじゃん」
「あ、いえ。そういう問題でもないような…」
「も~ロゼがそういう態度だから皆もそんな態度になるんじゃないの?まずはロゼから、ほら!」
「ん~あ~、はい。分かりました。皆立ってくれ。そうでないと話が進みそうにない」
考えるのが面倒になったのか素直にローゼリア様が立ち上がり、皆に立ち上がるように指示を出す。指示を出された側も恐る恐ると言った感じでゆっくりと立ち上がる。しかし姿勢は直立不動の態勢であり、気を抜いている様子は一切見られない。
しかしこれ以上は無理だと判断したのか、このやんごとなきお方も苦笑いを浮かべながら話を進めることにしたようだ。
「本当は皆にも、もっとリラックスした状態で話をしたかったんだけどね。残念だけどこれ以上は厳しいのかな?ちょっと残念だよ…ってゴメンゴメン。決して君たちのことを不快に思っているわけじゃないんだ。そこは安心してくれ。ホント、こんなんだったら、『国王』になんてならなきゃ良かったよ…」
聞いてはならないことを、聞いてしまった気がする。知りとうなかったその真実。こうもはっきりと言われてしまえば「聞こえていませんでした」とスルーするわけにもいかない。それにしても国王か。ローゼリア様の話しぶりだとその可能性も考えていたが、何でまた俺なんかに興味を持ってしまったのか…
ローゼリア様も、もしかしたら俺に気を使って正体を明かさないでおいてくれたというのに…ただ、もう正体がバレてしまったので色々と諦めているようだ。俺に説明するという意味もあるのだろう、冷静にツッコミを入れる。
「致し方ないでしょう。貴方はハイエルフではなくエンシェントエルフ。エルフ国の建国以来、ハイエルフが進化してエンシェントエルフに進化した事例など数えるほどしかありません。そんな貴方がエルフ国の国王の資格が無ければ、他の方にはもっとありませんよ」
「もちろん分かっているよ。それが自分に科せられた運命だとも自覚している。でも僕は民草とともに歩んでいく方が性に合っているんだ。…ってごめんね。こんなこと国の重鎮の前では言えないからさ、非公式であるこの場だけの事として、皆忘れてくれ」
同意するように無言で勢いよく頭を下げる里のお偉方。短いやり取りではあるが、この人の人となりが何となくではあるが分かった気がする。人望があるというのも頷けた。
「おっと、君のことをほったらかしにしてしまったようだ。とりあえずそこのイスにでも座って話をしようじゃないか」
そのままほったらかしにして下さい、そんなことを言えたらどれほど楽だろうか。促されるままイスに座る。机を挟んだ対面にそのお方が座りじっとこちらを見つめてくる。こういう空気は苦手だ、緊張する。
「まずは自己紹介をしよう。僕は………アーロンとでも呼んでくれ。エルフの国ではそこそこ偉い立場にあるが、この場ではただのエルフとして扱ってくれ。よろしく頼むよ、ゼロ君」
「え?あ、はい。分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします…」
先ほどまでのやり取りを忘れてくれと言ったが、それには自分の身分を明かしたことも含まれていたのか。とはいえ、身分を知った以上ただのエルフとして扱うことも出来るはずもない。
「君の眷属をエルフの里に配属する、そのことに関して話を聞きたいこともあるけど、君たちが襲撃したマリスレイブという都市。君は今後どのようなことをするつもりなのか聞いておきたいな。あぁ、心配しないでくれ、批判をするつもりはないからね。単に興味があるから聞いているだけだよ」
「分かりました。とりあえず今回の解放作戦は我々に死者は出ておらず、捕らわれた亜人をすべて解放できたことで、作戦は大成功であったと言えるでしょう」
そう、作戦は成功した。いや、成功し過ぎてしまったと言っても過言ではない。
町を襲撃したとき俺達を迎撃した衛兵はすべて返り討ちにしたし、逃亡時、追撃にきた冒険者達も皆殺しにした。その中にはアダマンタイト級冒険者、ゼノン・パルドクスもいる。
つまり俺達はあの地を治めるマリアーベ伯爵の面子を潰しまくったということだ。そんなことをされて黙っている貴族がいるはずもない。つまり将来に何かしらの遺恨が残るだろう。
それを防ぐための仕置きの準備もすでに終わらせているのだ。




