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パーティーの前に関係各所に今回の報告をすることにした。面倒ではあるが、こういった事は眷属を通じてあらゆる箇所から情報を随時入手できる俺がやるのが一番時短になると自覚もしている。
大量に渡されたポーションなどの消耗品もほぼ全ても使い切ってしまったため、一言二言小言を言われるかもと覚悟していたが「もう少し渡した方が、君たちに余裕があったのかもしれないな」と逆に謝られてしまい、恐縮してしまった。こんな同僚が前世に欲しかったと心底思った。
最後にはなったが里長であるローゼリア様のところに報告に行く。報告というものは一番最初に一番偉い人のところに行くのでは?とも思ったが、少し用事が出来てしまったとの事らしく、自分のところは最後にしてくれとの伝言があったのだ。
見慣れた屋敷の見慣れた客間。眷属を通して何十回と見た光景だ、もはや前世住んでいた自宅の次位に馴染みのある家だろう。扉に向かってノックをして、中にいる人に入室の許可を得る。
「俺です、ゼロです。今回の作戦の報告にきました」
中から俺を呼ぶ声が聞こえ客間に入ると、難しい顔をしたローゼリア様がいた。何か不都合があったのだろうか?焦燥感が俺を襲う。何か失敗してしまったのか…思い当たることが一つもない。大丈夫だと思いたい。
「あの…すみません、俺何かしちゃいましたか?」
「…?ああ、スマンの。お主の事ではない。…いや、まったく関係ないというわけでもないが…とりあえずご苦労じゃったな。皆無事で安心した。とりあえず今日はゆっくり休んで、明日また話をしよう」
「…そんな言い方されては、気になってゆっくり休むことなんてできませんよ」
「むぅ、仕方あるまい。まぁ良い、お主にとって不都合な話でもないからな」
そういってローゼリア様が話してくれた内容は、どうやらローゼリア様の本体がいるエルフの国の、やんごとなきお方が俺に興味を持ったという、いかにも面倒ごとになりそうなものだった。
「どうしてそんなことに?」
「お主の眷属を知り合いのハイエルフに営業しておったのじゃ。特殊な能力をもった意思の疎通が可能なスライム、お主の里で雇ってみぬか?とな。今回の事の顛末を含めて話すと、皆こちらが思う以上に興味を持ってくれたんじゃ」
「ありがとうございます」
「じゃが、儂が思う以上に、瞬く間にその話が広まってしもうてな。いつの間にか、そのやんごとなきお方の耳にも入ってしもうたのじゃ。それで…まぁ…そういうことじゃ」
「あの…俺、その人に殺されたりしませんよね?『そんな危険そうなスライム生かしておくな!』とか言われませんよね?」
「それは大丈夫じゃ。非常に理知的なお方であり、温厚で情もある。今回お主がエルフの救出に尽力したと知っておるので、お主を害すということは無かろう。じゃが…何が目的なのか分からんのでな。単にお主に興味を持っただけかもしれんし、何かしら思うところがあったのかもしれん。まぁ、先ほども言ったが優しいお方じゃから、お主が本気で嫌がることはしないじゃろう。じゃが、まぁ、お主なら大丈夫だとは思うが、一応言葉遣いなどは気を付けてくれ。やんごとなきお方じゃからな」
何度も念を押してくるあたり、本当に偉いお方なのだろう。それにしても大きな仕事が終わったと思ったら、さらに大きな仕事を任されたような…そんな気持ちにさせられた。これだったら冒険者相手に大立回りしているほうが100倍ました。とは言え断ることは出来ない。これなら聞かなきゃ良かったかもしれん、そう思った。
一抹の不安は残ったが、とりあえず身の危険は無さそうなのでパーティーは予定通り開催することにした。集まったのはすべて俺の眷属。エルフや獣人達も解放された喜びから同じように祝賀会を開くそうだが、未だ体調が万全でない獣人も多いため日を改めることにしたらしい。
とりあえず今日は俺の、俺による、俺のためのパーティーだ。精霊樹の実や、エルフに協力してもらって用意した、高位の魔物の遺体に舌鼓を打つ。
供された料理の中に異彩を放つものがあった。見た目は只のサラダであり、スライムの味覚では味を楽しむことが出来ないのは皆周知のはずだ。にもかかわらず眷属がこれを用意したということは、何かしらの狙いがあったに違いない。
『このサラダを用意したのは誰だ?』
『俺です。まぁ、ボスの言いたいことは分かります。とりあえず、一口食べてみてください。話はそれからでも遅くは無いですよ?』
『随分な自信だな。そう言うなら一口頂こうか……っ!う、美味い!何だこのサラダは!魔力が豊富で…こんなものがこの里にあったのか!』
『ふっふっふ、実はこの里の野菜って、精霊樹の近くで育てられているためか、ただの野菜でも魔力をふんだんに宿しているんですよ。だから俺達スライムが食してもちゃんと味がするんですよね。俺も初めて食べた時は驚かされました』
聞けばこの眷属が里の農家さんの畑仕事を手伝っているとき、誤って野菜を吸収したときに気が付いたのだそうだ。好感度を稼ぐため里の住民と積極的に交流を持てと命じたのは俺だが、まさかこんな嬉しい発見もあったとは…
その後、翌日に控える面倒ごとを一時でも忘れることが出来るぐらい楽しい時間を過ごすことが出来た。それでもやっぱり、少しだけ、気が重たいんだよなぁ。




