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俺の考えをレオン達に伝えた。両者共に俺の考えに同調し、両者が結びついた理由について考察することにした。
「貴族にとって高位の冒険者と繋がりを持つというのは、そう珍しいことではない。だが、取り扱いを規制している貴重な戦略物資を渡すというのは、少しばかりやりすぎな気もするんだよな」
「そうなのか?貴重と言っても、どれほど貴重なのか俺達には分からないからな…何か具体的な話とか知らないのか?」
「原材料からして、普通のポーションよりかなり珍しい素材が必要となるそうだ。おまけに並の調剤師では調剤できないほど難しい作業になるとも聞いたことがある。かつて俺が取り扱ったときは、衛兵による厳重な監視のもと一挙手一投足を監視されながらのものだったから、生きた心地がしなかった…というぐらいかな」
「結局…具体的な話は無いのか?」
「残念ながらない。つまりは只の商業ギルドの職員じゃ、魔力ポーションの根幹に関わるような具体的な話を入手することは出来ない…つまりはそれだけの品、ということだな」
「分かったような、分からないような…ですが、確かにそれだけの品をゼノンが所持していたということは、確かにマリアーベ伯爵とのつながりがあったとしてもおかしくはないですね」
「同感だ…それにしても…そうだとしたら、やはり今回の戦闘で俺達が勝てたのは、運が良かったからか…」
「どうしたんだ、レオン。何か思うところでもあったのか?」
「あった。あくまでも俺が感じただけの事だ、確たる証拠があるわけでもないが。…今思えば、ゼノンは最初から全力で戦っていないように感じたんだ」
レオンの話を聞くと、ゼノンはあまり大きくない傷でも回復の魔道具を使用していたそうだ。傷の程度の関わらず消費魔力は同一であるため、回復できるギリギリの状態まで魔道具を発動させないという戦い方が普通であるはずだったのに。
それをしなかったということは、もしかしたら今回の戦いで『魔力ポーション』を消費することが目的であったのではないか、そう思ったのだそうだ。
「しかし…一体何のために?」
「性能を知りたかったんじゃないのか?今後の戦いに備えるために」
「今後の戦い?」
「来るべき、亜人たちとの戦いの為…じゃないのか?」
レオンの考えは胸にストンと落ちた。マリアーベ伯爵がゼノンと繋がりを持とうとした理由…それは、自領で亜人との大規模な争いが起きると予想したためのものではないのか。
つまりゼノンは、マリアーベ伯爵が用意した対獣人用の戦力であったということか。彼を自領に呼び寄せる餌の一つが『魔力ポーション』というわけか。十分にあり得る話だ。普通の方法では入手できない『魔力ポーション』を入手できるとなれば、彼の興味を引くことも出来たはずだ。
今回の戦闘では『魔力ポーション』の性能を知るために大したことのない傷でも治療し、あえて魔力を消費した。獣人との戦いで『魔力ポーション』を使用したとマリアーベ伯爵に報告すれば、簡単に追加の『魔力ポーション』を支給されると考えていてもおかしくは無い。
「今はまだ自領近くの獣人の集落を襲うだけにとどまっているが、今後マリアーベ伯爵が力を付けていけば奴隷狩りをする範囲は増え他領にも及ぶかもしれない。そうなれば当然亜人による抵抗も強まるだろうから、今のうちにゼノンと繋がりをもってその時の為に備えていたんじゃないか?」
「確かにそう考えると、ゼノンがかなり性能のいい連絡用の魔道具を普段から持ち歩いていたというのも納得がいくな。俺の用意した『麒麟討伐』といういかにも彼が好みそうな依頼をほっぽり出して、ここに来たことも含めてな」
「普段はある程度の自由は認められていた。しかし、今回の様な亜人がらみの案件には率先して解決に協力するという契約だったのかもしれませんね」
「それで今後のことも考えて、『魔力ポーション』を性能を検証しようとレオン相手に全力は出さず、逆に殺されてしまったということか。ちょっと情けない話ではあるが、そのおかげで俺達が生き残ることが出来たんだ、結果だけ見れば良かったんだろう」
「まさか最後の最後でスライムが強襲してくるなんて予測できるはずもないからな。それでも…少し情けない気持ちにはなる」
悔しそうな表情を浮かべながらそう語るレオン。今回の勝利は相手の油断によるものという結果に納得したくないのだろう。それは俺も同感だ。もしかしたら、殺されていたのは俺達の方だったのかもしれないのだから。