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 深く切り裂かれたレオンの傷口から鮮血が飛び散る。ゼノンは勝利を確信した、喜びの表情を浮かべている。隙だらけだ。この戦いが始まって以降の、最大の隙であると言えるのは間違いない。しかし油断するのも当然だ。この場にいる強敵を倒し、自分に敵対する者はいないと思い込んでいるのだから。


 だから俺はそいつの顔に向かって、目一杯体を硬化して、全力で体当たりを喰らわせる。


 反撃があることを微塵も想定していなかったのだろう、剣や小手による防御は当然のように間に合わず、俺の攻撃は綺麗に決まった。


 ここから後の作業は俺からすれば手慣れた作業だ。顔面に張り付き窒息させる。とはいえ相手は今まで俺が戦ってきた中でも間違いなく最強の人物だ。俺の攻撃で少なくないダメージを負ったはずだが、即座に反撃に出る。


 剣で突然顔にへばりついた俺に対処するのは難しいとみて、即座に武器を手放し、両の手で俺を引きはがしにかかる。…やっぱりというか、こいつめちゃくちゃ力が強い。レオンとの戦いで疲労しているはずなのに。


 俺も万全の状態であるならそう簡単に引きはがされることは無かっただろうが、戦闘により俺もそれなりに魔力と細胞を消費したため、いつもより抵抗が弱いものになってしまっている。


 このままではマズイ。そう思った矢先、援軍がやってくる。いや、やってきたというよりは復活したという表現の方が正しいだろう。そう、レオンだ。


 確かにレオンの持つポーションは無くなっていたが、俺が体内に保管していたポーションをレオンから離れる直前レオンの傷口に使ったのだ。それによりレオンは即座に戦線に復帰することが出来たという寸法だ。とはいえその足取りは非常に弱々しいものになっている。それでも貴重な援軍には違いない。


 落ちていたゼノンの剣を手に取り、奴の首に深く突き立てた。抵抗らしい抵抗が無いままレオンが攻撃できたのは、顔にへばりついていた俺に気が散ってしまい、倒したと思い込んでいたレオンにまでは気が回らなかったためだろう。


 ゼノンの抵抗が次第に弱くなり……動かなくなった。それと同時に、とんでもない量の経験値が入ってきた感覚があった。無事、ゼノンを倒すことに成功したようだ。正直、ゼノンを倒し大量の経験値を得ることのできた喜びよりも、安堵感の方が強かった。つまりは、それほどの相手であったということだ。


 「傷の方は大丈夫か?」


 「何とかな。エルフのポーションでも完治できないぐらい深い傷を負ってしまったようだな、かなり痛みが残っている。他にポーションの予備は持っていないのか?」


 「お前に使ったのが全部だ。念話でゼノンを倒したことを報告したから、衛生兵を派遣してもらうことにしよう」


 「助かる。ゼロ、お前は大丈夫なのか?」


 「俺のスライム細胞が大分削られてしまったが、核さえ無事なら時間と魔力があればいくらでも解決できる問題だ。さて、衛生兵が来るまでにこいつの遺体でも吸収させてもらうことにしよう。時間も潰せるし、細胞の数も回復できる」


 ちなみに魔力の方も大分少なくなってしまっている。というのも、本来パラサイト・スライムは自身の魔力に加え、寄生主の魔力も吸収することで寄生主の身体能力を上げることが出来るのだが、獣人は人間と比べて高い身体能力を持つ一方、保有する魔力はかなり少ない。


 そのため今回のような長時間の戦闘となると、本来寄生主が負担するはずの魔力をパラサイト・スライム自身の魔力で補うことで戦闘継続時間を長くさせなければならないのだ。


 とはいえ、あくまでもその方法は本来の能力の在り方を捻じ曲げるような、いわば裏技のようなものであり、その弱点として消費魔力がいつもより多くなってしまった。『精霊樹』からの魔力供給が無ければ、今も魔力の増大した魔力の消費量に頭を悩ませていただろう。


 などと考えながらゼノンの装備品を傷つけないように、慎重に吸収する。これらの装備品には少なくない魔力が宿っているので吸収すれば俺の糧になることは間違いないが、正直魔力を回復するためだけに吸収してしまうのは少々勿体ないのだ。


 肝心のゼノンの遺体の味はと言うと…素晴らしいの一言に尽きた。これで魔力の回復はもちろん、経験値の獲得も出来るのだ。当初、ゼノンと戦う予定ではなかったが、今後のことを考えるとこいつをこの場で倒すことが出来てよかったと思う。


 しかし、残念ながら楽しい時間はあっという間に終わりを告げる。俺の位階が上昇し、吸収速度が上がってしまった弊害ともいえる。まぁいい。俺がもっと強くなれば、ゼノンのような強者を倒す機会は増えていくことだろう。


 しばらくの間、ゼノンの味を思い出すように感慨にふけっていると猫の獣人が俺達の前に姿を現した。彼は確か…カリンと言ったか。猫の獣人で、レオンと同郷の、彼の腹心の一人と言える人物だ。


 「おいおい、大丈夫かレオン。全身血まみれじゃないか。ほら、ポーションだ」


 「すまない、助かる………ふぅ、ようやく人心地ついたな。まだ万全ではないが、何とか動くことは出来そうだ。それにしても、わざわざお前に来てもらわなくても…ポーション持ってくるだけなら他の奴でも良かったんじゃないのか?」


 「いや~実は暇してたんだよ、俺も。医療知識があるから衛生兵のような役回りしてたんだが、ポーションが大量にあるから俺の知識を使う機会が無かったんだ…」


 かなり気まずそうに話すカリン。ポーションはかなり貴重な物資だ。本来なら余程の傷でもなければ使うことは無い。その為、軍において衛生兵の様な役回りは重要である。だが今回はエルフという強力なバックアップのおかげで、ほぼ無制限にポーションを使うことが出来た。


 そのため一般兵でもポーションが支給され、即座に傷の回復が出来たのだ。つまりは衛生兵が必要ではなかったということか。


 恐らくカリンは何かしらの働きをしておかねば、今後仲間に合わせる顔が無いということでレオンにポーションを持ってきたということか。聞けば彼もかなり強いらしい。戦線に投入していれば、もう少し楽が出来たかもしれないということだった。


 敵の事ばかり調べて、味方のことを調べるのが少々おざなりになってしまっていたようだ。やはり自分は未熟だと、実感させられた。これも今後の糧としよう。


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