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 白銀のフルプレートアーマーに身の丈ほどの大きな大剣。本来なら移動するだけでも一苦労しそうな重装備にもかかわらず、こんな険しい道を悠々と走破してきたのというのか。


 もちろんそれらの装備品は魔道具の類であり、重量を軽くする魔法をかけられているだろうが、それにも限度というものがある。となるとやはり、この人物がどれだけすごい身体能力を持っているのかは想像もしたくないほどだ。


 奴の表情も自分の力に絶対の自信を持っている、上位者にありがちな周りの人間を見下すことがさも当然であるかのような、そんな冷たい印象を与えてくる。


 「くくっ…獅子の獣人か。噂ではお前の種族の戦闘力はなかなかのものだと聞いていたが、冒険者が1人たりとも戻ってこないってことは、その噂は本当だったということか。だが、そのことで慢心したな。この俺をたった1人で迎えるとはな」


 「慢心したつもりはない。ゼノン・パルドクス…お前を殺すのに、仲間の力を借りる必要が無いと判断したまでの事だ」


 「ほぅ…俺のことを知っていたのか。しかしまぁ、言ってくれるじゃないか、亜人風情が…」


 ゼノンを挑発し、この場に釘付けになるように誘導したか。レオンを無視して解放した奴隷たちの方に向かわれてしまえば、それなりの被害が出ていたはずだ。上手いやり方だと素直に納得が出来た。


 だがその代償として、ゼノンから明確なる殺意を向けられてしまったようだ。いうなれば、今までは単なる依頼の遂行のための障害の一つであったが、今は完全にゼノンにとっての殲滅対象になってしまった、といった感じだ。


 殺意自体はレオンに向けられているはずだが、そういったものに疎い俺でも、この場を満たすズシリとした重い空気に委縮してしまいそうになる。


 短くない睨み合いがあった後、ゼノンが背負う形で装備していた大剣をゆっくり抜き放ち、尊大な構えをとる。一見隙だらけに見えるそれも、奴の高い瞬発力と反射神経、そして身体能力をもってすれば隙となりえないということは十分に理解している。


 それに呼応するように、レオンも腰に帯びた剣を抜き正眼に構える。レオンのその一見隙が無いように見えるその堂々とした構えも、ゼノンの前だと心もとなく見えてしまう。


 こちらが構えるまでゼノンがレオンに襲い掛かってこなかったのは、格下相手に自分から隙を突くような攻撃すること良しとしない、奴自身の高慢な性格の表れだろう。


 双方がにらみ合ったまま時間が流れる。正直時間がかかればかかるほど、解放した奴隷の逃走のための時間が稼げるため、こちらとしてはありがたい。しかし、実際に強敵と向かい合っているレオンの精神的負担はかなりのものだと思う。


 レオンに寄生しているから分かる事だ。先ほどから過度な緊張のためか心拍数は上がりっぱなしだし、剣を持つ手は汗でじっとりと濡れている。このまま時間が過ぎていけば、戦う前にレオンは精神的疲労のため動きが鈍くなるかもしれない。


 そう思ったのは俺だけでなく、レオン自身そう感じたのだろう。突然、脚に目一杯の力を込めて踏み込み…一気に間合いを詰め、正眼から上段に構えた剣を奴の頭めがけて思いっきり降り降ろす。


 流石はレオンだ。レオン自身の身体能力の高さ、そして日々の鍛錬の成果か一切の予備動作がなく、そして無駄な動作が全くない状態から繰り出された最速であるその攻撃は、仮に相対した相手が俺であれば防ぐことなくあっさりと頭から真っ二つにされていただろう。


 だが、残念ながらそう簡単に倒せないが故の、アダマンタイト級冒険者なのだ。


 不意を突けたと思われたその斬撃を、軽くバックステップすることでレオンの攻撃を容易くかわす。そして剣を振り下ろした状態と言う、隙がある状態であるにもかかわらずレオンに対して攻撃しようとはせず、その場でニヤニヤとこちらを見下すような表情を向けてきた。


 真剣勝負の最中、相手に向かってそんなことするなよ。絶対こいつ性格悪いだろ…そういやこいつ、都市の冒険者から嫌われていたな…嫌われていた理由の一端を垣間見た気がした。実感はしたくなかったが。


 でも、まぁ、そのおかげで助かったのだとしたら、悪くは無いのかもしれない。身体ではなく、プライドの方は深刻なダメージを負うことにはなるが。


 レオンはさらに踏み込み、切り上げ、突き、横薙ぎ、と言った攻撃を次々と仕掛けるがそのどれもがかすりもせず、虚空のみを切り裂いていく。もしかしたら、俺が思う以上にこの2人の実力の差はあったのかもしれない。


 そうなるとレオンの勝利は絶望的か…今ならまだ間に合う。援軍を要請して、例え情報を持ち帰られたとしてもレオンの命を優先させるべきか…


 一通りの攻撃を終えた後、レオンが構えを解き剣を肩に乗せる。あきらめた…と言うことはレオンの性格からしてありえないと思う。


 「ま、準備運動はこのぐらいでいいだろう」


 「ようやく終わったか。てっきり手を抜いた斬撃の最中に俺に攻撃させて、その瞬間に本気の斬撃を放つことで、それまでの斬撃の速さとの違いでこちらを動揺させる作戦だと思ったんだがな」


 「その程度の簡単な策に、お前は乗るような奴ではないだろ?」


 どうやら見誤っていたのはレオンとゼノンの戦力差ではなく、俺とこの2人の実力差であったということか。思ったよりもいい戦いになるかもしれない、ひとまずは安心した。


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