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 最初に追撃に現れたのは都市を守る衛兵たちであった。装備が軽装であったことから目的は俺達の殲滅ではなく、情報収集の為に駆り出された部隊なのだろう。練度も並程度のものしかなく、戦闘意欲と言うものがあまり感じられなかった。それでも情報を持ち帰られてはたまらないので、皆殺しにさせてもらったが。


 次に現れたのは騎馬隊。俺達が逃走経路として選んだ道は草木が生い茂っており、馬の持つ機動力を十全にはいかせないような悪路だ。乗っていた兵士の質は最初に来た衛兵達よりも高かったが、それでも木の陰などを利用すれば難なく返り討ちにすることが出来た。


 ちなみに逃走経路に悪路を選んだ理由は、それが里までの最短距離であったことに加えて、獣人にとって悪路は移動の障害にならなかったことだ。流石は身体能力の高い獣人、護衛対象が強ければ護衛する側も楽であると実感した。


 それでも、長い間の奴隷としての生活によって体力は削られ、その高い身体能力を逃走のために使い切ることが出来ないのもまた事実だった。


 中には見せしめとして、足の腱を切られてしまった者もいる。そういった者は解放軍の体力に自信のある奴がおんぶして移動してもらっている。移動もままならない獣人の今後の生活はどうなってしまうか心配したが、どうやらエルフの高い治癒魔法能力があれば、そういった怪我でも完治することが出来るそうだ。


 そういった理由もあり、襲撃には直接参加しなかったエルフも解放軍から侮られるということは無く、むしろ感謝されており良好な関係を築くことが出来ている。


 1日目の追跡者を難なく返り討ちにした翌日の2日目。ついにマリアーベ伯爵に雇われたと思われる冒険者集団が、追跡部隊に加わった。


 戦闘のエキスパートである冒険者。その強さは都市の衛兵なんかとは比べ物にならない。はっきり言って1日目は前哨戦にもならない、2日目からが本番だと言えた。


 それでも1日目の連中が大したことが無かったおかげで、道中に様々な罠を仕掛ける余裕があったのは僥倖だった。それを用いれば、俺単体でも追撃部隊を殲滅できると思えるほどに。そのおかげで皆、比較的リラックスした状態で戦いに挑むことが出来ていた。


 実際…というか、俺が待ち伏せている場所まで追撃者が迫るということは無く、俺よりも都市に近い場所で待ち伏せしていた連中に殲滅させられていたぐらいだ。


 その部隊はパラサイト・スライムを寄生させている者もいるので俺にも経験値は入ってはきたが、俺が直接倒した方が経験値効率はいいので少しぐらい俺に回してくれてもいいのにな…と、考える余裕まであったぐらいだ。その日の夕方までは。




 『冒険者と思われる一団にサルカの森の侵入を許した、か。もう少し時間に余裕があると思っていたんだがな…狙いは言うまでもなくゼノンと連絡を取り、応援に来てもらうことだろうな』


 『はい。それが予想できたためサルカの森周辺に獣人達を配置して、連絡を取ろうとする冒険者を森に侵入する前にあらかじめ倒しておくことで、連絡を取れないようにするつもりでしたが…申し訳ありません、してやられました』


 聞いた話だと、ゼノンが持つ魔導具の中には冒険者ギルドから支給された連絡用の魔道具が存在するのだそうだ。ただ、俺の念話とは違いある程度近づかなければ連絡が取れない代物ではあるらしいが、それがあるのとないのとでは、険しい森の中で連絡を取る事の出来る速さは雲泥の差であろう。


 その存在を知った俺は、俺達が事を起こした後、ゼノンに都市の襲撃の情報が伝わるのを少しでも遅らせるためにサルカの森近くに獣人を配置した。言うまでもなく、ゼノンとの連絡用の魔道具を持たせた冒険者を始末するためにだ。


 だが、その作戦はうまくいかなかったようだ。割いた人員が少ないため、獣人の1人辺りの警戒範囲が広くなりすぎたからだ。


 『いや、元々ゼノンと連絡を取るのはもう少し後になるだろうと思って、そちらの方にあまり戦力を割かなかった俺のミスだ。解放された亜人たちがエルフの里に到着するまで最低でもあと数日はかかる…これは…腹をくくる必要がありそうだな』


 『我々はどうしましょうか?サルカの森に入り、ぎりぎりまで連絡用の魔道具を持った冒険者を狙ってみましょうか?』


 『そんな危険は冒さなくていい。ゼノンに姿を見られたら殺されるかもしれないからな、周辺にいる獣人は即刻退避してくれ。念のため、マリスレイブの都市を大きく迂回するようにしてな』


 『了解です』


 さて、腹をくくると言ったがどうしたものか。獣人とエルフの余剰戦力をすべて投入すれば倒すことはそう難しくはないだろうが、それほどの戦力を見せられれば流石のゼノンも逃げの一択だろう。


 そして奴ほどの実力者が逃げに徹すると、まず間違いなく逃げ切られてしまうだろう。そうなればこちらの情報もある程度は持ち帰られることになる。


 となると、少数で奴を出迎えなければならない。例えばタイマンで戦いを挑むのであれば、ゼノンの性格からして逃げ出すという事はないだろう。


 …こういった難しい問題は情報収集した後じっくりと考えたいところだが、残念ながら俺達に残された時間はそう長くない。すぐにでも対策を練らなくては。


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