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要約すれば、ジルが幼いころ魔物に襲われて角が中ほどで折られてしまったことが原因だったらしい。オーガという種族は力こそがすべてという考えが根付いており、折れた角=敗者の証というレッテルを張られてしまい、周囲から蔑まれながら生活していた。そのため力をつけて皆を見返すために、集落のあった地域から離れこの場所に行きついたということだ。


『しかしなぜ人間達がたくさん住んでいるこの場所を選んだんだ?』


『人間ハ弱イ。ダガ、殺セバソノ強サノ割ニハ多クノ経験値ヲ得ルコトガデキル。短期間デ強クナル為ニハ、経験値ヲタクサン溜メテ進化スル方法ガ一番ダト思ッタカラ人間ヲ標的ニ定メタノダ。ダガ人間ノ強サハ群レルコトニアル。今ノコノ追イ詰メラレタ状況ハ、ソノ強サヲ甘ク見テイタ俺ノ失態ダ』


『なるほど、理解したよ。一応言っておくが人間の中には単騎でオーガの部族を壊滅するような化け物もいるということも覚えておいてくれ。油断し過ぎるのは良くないぞ。それと悪いがしばらくは俺の指示に従ってもらう。例え傷が完治しても、この冒険者達の包囲網を離脱するのは容易ではないからな。なに、心配するな。俺だってせっかく手に入れた味方をみすみす冒険者にくれてやるつもりは微塵もない。ま、大船に乗ったつもりでどっしりと構えてな』


 その後物資を運んできたスライムが到着し、ジルの治療と体力の回復に努めることにした。ここまでは順調だったが、一つ致命的なミスを犯していた。それは傷の治療のために薬草を傷口に塗り込んだのは良いものの、傷口に巻くための包帯を用意していなかったということだ。


 ジル自体はそのことにあまり関心がないように思えるのは、オーガには傷口に包帯を巻くという治療法がないからなのかもしれない。確かに人間よりも遥かに丈夫で頑丈な皮膚を持つオーガは、よほどのことでもなければ傷を負うこともないだろう。つまり必要がないからそういった治療に関する知識が発達していないということだ。


 しかし包帯を巻くのと巻かないとでは傷口を塞ぐ時間に大きな差が出ることを俺は知っている。冒険者達がこの洞窟の存在に今はまだ気づいてはいないが、すでにいくつもの村が襲撃されていることもあり、冒険者たちの士気は非常に高い。そのため、今この瞬間にもこの場所が見つかっても不思議ではないのだ。治療に時間をかけるのは得策ではない。仕方ない。少々もったいない気もするが、先ほど思いついたこの方法を試すとするか。




 『コレハ、何ダ?』


 『分からないのか?見ての通りだよ。スライムが包帯の代わりになって、お前の体に貼り付いてやっているんだ。常に傷口どうしを寄せて合わせているから、かなり早く傷口が塞がると思うぞ。それよりお前のためにせっかく食い物を持ってきてやったんだ。たくさん食って、さっさと回復しろ』


 『感謝スル。必ズコノ恩ハ返サセテモラウ』


 そう言うと、眷属が持ってきた動物の死骸を頭からバリバリと食べ始めた。余程お腹がすいていたのだろう。おかわりまで要求してきやがった。まぁ、将来に向けての投資だと思えば、大変ではあるが遣り甲斐のある仕事でもあるか。




 ジルを発見してから三日がたった。傷口は完全に塞がっており、体力も十二分に回復している。ただ傷口は塞がったが、16番はゼルに巻き付いたままにしている。というのも、不測の事態に備えて円滑に情報を共有するための措置だ。そしてこの不測の事態がすぐ目と鼻の先まで来ている。


 ジルを全力でサポートするため、かなりの数の眷属をゼルのいる場所周辺に派遣した。冒険者たちの情報を少しでも多く入手するためだ。そしてその眷属たちからの情報によると、どうやらジルを見つけることのできない冒険者たちに追加の増援がやってきた。金級冒険者達である。そのことでさらに士気の上がった冒険者たちは、それこそ草の根を分けてでも探し出す勢いで捜索を始めていた。


 流石にここまでされてしまえば、ジルが発見されてしまうのも時間の問題だ。いまだ懸念事項はあるが、行動を開始することにする。まずは16番に意識をつなげる。


 『おい、ジル。緊急事態だ。多分冒険者たちがここを発見するのも時間の問題だ。流石にこの狭い洞窟内で発見されてしまうのはまずい。図体のデカいお前は十分に動けないから、その分だけ不利になるからな。発見される前にここを出て、乾坤一擲の大勝負にでるぞ!』


 『ケン…?言ッテイル意味ハ分カラナイガ、状況ハ理解シタ。体調ニ問題ハ無イ。ソレデ、俺ハドウスレバイイ?』


 『行動するのは夜だ。指示は逐次俺が出すからお前は仮眠でも取って休んでおけ』


 『ム…、了解シタ。ソウイエバ、前カラ聞コウト思ッテイタコトダガ、ナゼ16番ハ『二人』イルノカ?』


 『二人…どういう意味だ?あぁ、そうか、そういうことか。つまり今話しているこの俺と、普段お前と話しているこの16番、という意味で二人、か。簡単に言うと、今話している俺は16番の長のような存在で、今のようにいつでも16番の意識を乗っ取ることができるんだ。だから正確に言うと、今ジルと話している16番は肉体的には16番だが意識は16番ではない…ということなんだ。自分で言っていることだが、少しわかりにくいな。スマン。もっとうまく説明することができればいいんだが…』


 『何トナクデハアルガ、理解シタ。ソレデオ前ノコトハ何ト呼ベバイイノダ?16番ガ二人イルト、少シ面倒ダ』


 『そう言われれば、そうかもしれないな。だったら俺のことはゼロとでも呼んでくれ。由来は数字のゼロ。ゼロ番目の俺っていう意味だ。それにしても16番と俺、そんなに違うか?』


 『違ウナ。16番ハ、ゼロヨリ話シ方ガ丁寧ダ。ソレヨリ、少シ早イガ俺ハモウ休マセテモラオウ。行動スル前ニ、事前ニ体ヲ動カシテ準備シテオキタイ。ソノタメノ時間ヲ確保スルタメニナ』


 そう言うと、ジルは横になって眠りだした。それにしても俺と16番は違う存在なのか?しかし16番にある自我も元々は俺自身のものだったが、確かに時間とともに、眷属たちにも多少の個性というものが出てきていた。ここらで一つ、その差というのを確認してみるとしようか。パスを16番へと繋ぎなおし、念話をする。


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