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物陰に身を潜め気配を殺して待ち伏せていると、冒険者と思われる一行が舗装された大きな道を急いだ様子で駆けてくるのが見えた。あいつらは確か…ふむ、なるほどな。流石に行動が速い。それに、何か会話をしているようだ。重要な情報があるかもしれない、耳を傾けることにする。
「なるほど、確かに商業区画や一等区画の方から火の手が上がっているようだな。しかし、一体誰が…何のために…?」
「さぁな。冒険者ギルドの方も寝ている職員を叩き起こして情報収集を行っているようだが、商会からの連絡が来ていないみたいで、まだ何もわかっていないみたいだからな。けど、現場に行ってみりゃ何かわかるんじゃないか?まぁ、1つ言えることがあるとすれば、商人たちに恩を売るいい機会だということぐらいか」
「確かにな。まぁ、金持ちなんて至る所で恨みを買っていそうだからな。本音を言えば自業自得の様な気もするが…ま、これだけの騒ぎだ。ギルドからも緊急の依頼と言うことで、割増の報酬が出るだろうしな。気合入れていくぞ、お前ら!」
と、言った感じで会話に集中していたので、不意を突いてマジックキャスターと思われる冒険者に、先ほどから詠唱を唱えていた、新しく習得したファイヤーボールを放つ。ここが広い道でよかった。周囲の建造物に被害が及ぶことはない。
直撃するかと思われたその攻撃は、寸でのところで盾持ちの冒険者が間に入り、俺の放った大きな炎の塊を手に持ったその大きな盾で防いできた。流石は現在この都市にいる冒険者でも、トップクラスの実力を持つと言われるミスリス級冒険者のパーティーだ。流石に一筋縄ではいかないという事だ。
冒険者のランクというものは個人の能力によって与えられるため、例えば金級冒険者が多くを占めるパーティーの中に、1人だけ銀級の冒険者が在籍しているという話は珍しくもない。むしろ、パーティーの皆が同じスピードで昇格し続けるというほうが珍しいと言えるだろう。
そして、今、俺達の目の前にいるミスリス級の冒険者パーティーは全員がミスリル級の実力者であり、しかもそのメンバー全員が、パーティー結成初期から一切の人員の変更が無かったという極めて珍しい構成をしている。
冒険者とは、長らく活動していたらケガや病気などの理由も含めてパーティーのメンバーの変更など当たり前である過酷な職業だ。それがない、つまりパーティー結成初期から同じ仲間であるため、当然彼らの絆は堅固だろうし、連携も素晴らしいはずだ。
だが、そんな素晴らしい連携を見たくもないし、見せる余裕を与えるつもりは毛頭ない。今回俺が放った魔法は防がれてしまったが、周囲の建造物に配慮しなければならない、つまり都市内部で自由に魔法を放つことのできないマジックキャスターは、はっきり言ってこの場で倒すべき優先順位はそれほど高くない。
つまりは、防がれる前提で魔法を放ったのだ。
俺が魔法を放ったことで、冒険者の注目が俺が身を潜めている方に向く。作戦通り。あえてここは物陰から飛び出して、冒険者から更なる注目を集め…本命であるレオンが背後からの奇襲を成功させる。
狙いはパーティーのリーダーだ。仲間に指示を出す時間を与えることはしない。そしてただでさえ強いレオンの不意を突いた攻撃を、防ぐ手段を彼らは持ってはいない。
更なる混乱を生み出す。俺とレオンで挟撃し、その冒険者パーティー全員を狩り殺す。時間にして数分の出来事だ。作戦が上手く嵌り、わずかに弛緩した空気が漂うが、それは後から続くいくつもの足音によって掻き消える。
いくら作戦が上手くいったとは言え、発生してしまう戦闘音まではどうしようもない。つまりそれを聞きつけた冒険者がここに大挙して押し寄せてくるということだ。そしてその冒険者は当然、奇襲される可能性も踏まえたうえでここに来るだろう。
とはいえ、この都市で最も強者だったパーティーは先ほど殲滅した。一番強い冒険者が一番行動力があり、一番最初にこの道を通って現場に向かうことは予想できた。そしてその予想は的中した。つまり最も厄介であろうこの冒険者パーティーを殲滅した時点で、ここでの奇襲作戦の半分は成功したと言えるだろう。
もちろん他にも強者がいるのは十分理解しているが、この都市でもトップクラスの実力者である彼らの遺体を放置することで、その遺体を見た冒険者が俺達の強さに恐れをなし、わずかにでも士気を削ぐことが出来れば時間を稼ぐことが容易になるということだ。
まぁ、強者である冒険者の遺体を吸収できないのは経験値的に少々痛いが、ここは作戦の成功を第一に考えて行動することにした。




