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「終わったっスよ。無事こいつの体を支配することに成功したっス」
先ほどまで俺と普通に会話していた奴隷商の口からそんな言葉が出た。4番は相変わらずチャラいしゃべり方だ。まぁ変に堅苦しいよりも話していてずっと楽ではある。眷属は元々は俺だったくせに、丁寧な話し方をされるので違和感しかないのだ。
「支配…と言っていたが、4番という奴がこいつの体を乗っ取ったということか?」
レオンが興味深々と言った表情で問いかけてくる。いきなりこの奴隷商の口調が変わったとはいえ、すぐに信じることが出来ないというのも仕方のないことだろう。
「そういった解釈で間違いはないと思うっスよ。でも冒険者とかを『支配』してもその人の持っていた能力をボスに還元することは出来ないんで、『同化』と違い、本体の強化が出来ないのは問題点と言えるっスね」
「となると、完全なるサポートタイプの能力と言うことか。銅級冒険者を1人ぐらい支配できても、あまり戦力としては期待できんだろうしな」
「うっス。ただボスの『同化』の能力と同じように、このままこいつを商館に戻したとしてもしばらくの間は大丈夫でしょうが、本人の自覚していないような小さな癖などから周りに違和感を抱かれてしまう可能性も十分に有りえるっス」
「俺の体験談から付け加えると流石に商会長ほどの人物を支配すれば、当然周りには鋭い人もいるだろうからバレる可能性も高くなるだろうな。ただ下っ端とかだと案外バレないんじゃないかとも思っている。特に家族と同居していない1人暮らしとかしている奴ならなおさらだな。ただの同僚とかなら、少し変わったぐらいじゃ周りもあまり気にしないだろうし」
「じゃぁ、私が調べていた商会の従業員を支配する予定ってこと?」
「そういうこと。まぁ、最初は言っていたように俺が『同化』する予定だったけど、ドミネイト・スライムの成長が思ったよりも進んでいたことと、獣人達の協力で情報がより多く集まってきたから、わざわざ『同化』しなくてもそれなりの情報が集まってきているからな。それだったら『支配』して、支配した従業員をこちらの都合のいいように動かした方が良いんじゃないかと思ってな」
『同化』してしまえば情報を得ることと、その姿を奪うことが出来るようになるが言ってしまえばそれだけだ。得られた情報も本人でなければ十全に扱う事が出来なかったものもいくつもあった。
そう思えば『支配』の能力の方が同時に支配出来る人数に限りがあるとはいえ色々と使い勝手がいいのも事実だが、銀級以上の冒険者相手だと使い道がほとんどないという弱点もある。
まぁ、今後の強化次第で、『支配』できる人数も、強さにも変化が出るだろうが、それはあくまでも希望的観測に過ぎない。支配できる人間の強さは銅級冒険者が上限で、人数だけが増える可能性もあるし、当然その逆も考えられる。
どのみち、今の段階では考えても意味のないことではある。これ以上ドミネイト・スライムの位階をあげるだけの時間的余裕はないからだ。
その後の話し合いで早速明日にでも、支配する予定の人間を襲撃し確保するということになった。急な話ではあるが、事前の調査は入念に済ませているので特に問題は無い。やはり戦闘において情報というものは、実際の戦闘力と同じぐらいは大事なのだと実感させられる。
「そういえば、この支配した奴隷商はどうするの?このままマリスレイブに返して、こちらに都合のいいように操るつもりなの?」
「うーん、それはあまりお勧めできないっスね。こいつ亜人の奴隷集めるためにかなり借金をしているようでして、今回移送していた奴隷がこいつの所有する亜人奴隷のすべてだったんみたいなんスよ。それが失敗した時点でこいつのお先は真っ暗っス」
「なるほど、余程資金繰りに困っていたから少しでも高額で売ることが出来るように、危険を承知で領外に奴隷を売りに出たのか。失敗してしまえばすべてを失うというのに…いや、我らが亜人を救出するためにマリスレイブを襲撃するから、どのみちこいつは詰んでいたのか、それが多少早まっただけ、か」
「よし、それじゃちゃっちゃとこいつは始末してマリスレイブに向かうとしますか。そんで、大手の奴隷商に勤める商会員を拉致したのちに支配。俺達が行動を起こすタイミングに合わせて商会内部で諸々の準備を進めてもらう…って流れで問題ないか?」
「大丈夫っス」
「こちらも、問題ないわ。いつでも行動を起こせるように、すでに条件に合いそうな職員の住所はもちろん、勤務時間から行きつけの食事処。休日の過ごし方まで調査済みよ」
「拉致するのであれば、我ら獣人の解放軍の中にそういった暗部の仕事を得意とする者が何人かいる。ここまでおぜん立てしてもらったのだ、その仕事は我らに任せてもらいたい。少しは役に立つところを見せないとな」
「心強いよ。んじゃ、行動開始!」
丁度良いことに辺りが薄暗くなり始めたので、マリスレイブに向けて移動を開始した。ちなみに殺した奴隷商から得ることのできた経験値はかなり微量であった。昔の俺なら十分満足できたんだけどな…強くなったことの弊害か、ぜいたく病のようなものかもしれんな。




