130
「こいつが奴隷商ってことは、護衛の冒険者とかはいなかったのか?そいつらはどうしたんだ?」
「もちろん、その場ですぐに殺したな。俺達の情報を持ち帰られると、それだけこちらが不利になるからな。こいつだけは生かして連れて来たんだが、『殺しても心の痛まない悪人』という要望だったし、どうせこいつを生かして返す気はないんだろ?」
「まぁな。よし、それじゃ早速実験開始だ!」
能力を行使するのにわざわざ起こす必要はないが、支配する前とした後の様子もしっかりと観察したいので、奴隷商を結構強めに叩いてみたが一向に起きる気配を見せない。どれだけ強力なんだこの薬は。仕方ないのでレオンに頼んで気付け薬を用意してもらい、それを嗅がせることでようやく目を覚ました。
「ぅ……ぁ………うぅっ……」
どうやら意識がはっきりするまで、少し時間を置く必要があるようだ。カッコよく『実験開始だ!』と宣言した手前、ちょっとだけ締まらないなぁと思ってしまった。とはいえこの状態で実験を始めてしまうのもよくはない。どうやって時間を潰すか…
「そういや解放した獣人達はエルフの里に連れて行って、療養させるって話だったが、順調に回復していっているのか?」
「いや、里に連れていく前の段階で問題が発生した。先も言ったが、奴隷となっていた連中はかなり疲労しているようでな。移動も簡単には行っていない様だ。今も休憩をはさみながらの移動なので、かなり時間がかかっているようだ」
「ってことは、マリスレイブの亜人を解放した後も、人数が多い分、今回よりも移動に更に時間が必要になるということか。里周辺の奴隷商が撤退したから問題ないと思っていたんだがな。そうなんでも上手くいくわけではない様だな」
「解放した奴隷の移動に時間がかかってしまえば、当然人間達はその間に準備を整え、追撃に来るだろう。解放した奴隷の後方を守る部隊は、激戦が予想されるだろうな」
「かといって、そちらにばかり戦力を割いても、解放された亜人たちの周りを護衛する部隊も用意しなくちゃいけないしな。道中には当然、魔物とかもいるだろうし」
「ああ、難しい問題だ」
色々と情報のすり合わせをしていると思ったよりも時間が経っており、捕らえた奴隷商の意識がしっかりし始めたようだ。
「……おい、あんた人間だよな。どうして人間が亜人なんかと仲良くしてんだよ…頼む、俺を解放してくれ…金ならいくらでもやるから……な…?」
「む…ようやく起きたか。それで俺が獣人と仲良くしている理由か?今の俺は亜人と協力体制にあるからな、仲良くするのも当然だろ…って、そんなことを聞きたいんじゃないんだろうけどな。それで、まぁ、お前には悪いが、俺達の実験のための贄になってもらうつもりだ」
「贄?何言ってんだ。頼む…頼むよぉ。俺達奴隷商が獣人をこき使ったことがそんなに悪いってのか?だったら、俺以上に悪い奴なんて、あの都市にはごまんといるじゃないか。俺なんてまだかわいい方だぞ…」
「獣人をこき使ったことは当然悪いことだと思うが、それ以上に悪いモノがある。それはお前の弱さだ。お前がもっと強い護衛を雇っていれば、俺達に捕まるなんてことは無かったんだ。つまり一番悪いのはお前自身なんだ。恨むなら自分の弱さを恨むんだな」
「はぁ…?あんた、何を言って…」
「弱いと言うことは悪いことなんだ。そう言った意味では、冒険者に捕まった獣人達も悪いと言えるな。だから俺はそのことでお前を責めたりはしない。獣人達が強ければ捕まるなんてことは無かったんだからな。今捕まっている獣人達の境遇は、彼ら自身のせいでもあると言えるからな」
「だ、だったら…」
「だが、その後が悪かった。マリスレイブで獣人の奴隷をこき使うだけの奴隷商であったなら、強者であり続けることが出来たのに、欲をかいて獣人を他の領に売って多くの利益を得ようとしたから、俺達に捕まって虜囚という弱者となってしまったんだ」
「………」
「ま、別に理解してもらおうとは思っちゃいない。自分でも思うが俺の考えは少しばかり、ズレている気もするからな。俺が言いたいのは強ければ何をしても許されて、弱ければ強い奴から搾取されるだけだってことだな。さて、こちらの準備も終わったことだし……4番、お前の能力を俺達に見せてくれ」
「了解っス」
そういって、ドミネイト・スライムの4番が触手の一部を奴隷商の耳の中に侵入させる。かつて本物のフィリップにやったやり方と同じ方法だ。ただ、あの頃は4番も普通のスライムであったので、進化したこいつの能力を、俺自身の目で確かめるのは今回が初めてだ。
かなり強力な能力であるのは事前に聞いているので、非常にワクワクしている。