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俺がこの町に来てから1週間がたった。時間はかかったが集落にいたオークはそのすべてを俺の眷属で吸収することができた。得ることのできた経験値はかなりのものであり、やはり危険を冒してでも人間の町に入ったことは正解だったと確信した。
本体である俺はいつものように冒険者ギルドで依頼を受け、町の外で一仕事を終えて報酬をもらう。日課となっている剣の鍛錬をしていると、眷属からの連絡があった。ついにオーガを発見することができたらしい。
すぐに自室へと帰り、その眷属と意識を共有する。一週間全く音沙汰がなかったのですでに死んでいるものだと思っていたが、ちゃんと生きていたようだ。どうやら洞窟の中に隠れ、潜んでいたらしい。冒険者に見つからないよう洞窟の中からその洞窟の出入り口付近の天井を攻撃し、崩落させることで出入り口の存在を隠すことに成功したのだ。俺の眷属が発見できたのも、瓦礫の隙間をうまくすり抜けることのできる軟体な体のおかげだ。
その後、元々その洞窟をねぐらにしていた思われる熊を食べながら体力の回復を図っていたようだ。かなり行き当たりばったりの運任せであると思われるが、それほどまでに追い詰められていたということなのかもしれない。
不用意にオーガに近づくが、やはり一切警戒の色を示さない。共有している視界でそのオーガを観察する。かなりの深手を負わせたというギルドからの情報の通り、全身が傷だらけである。
さて、このオーガ発見の情報をどうするべきか。冒険者ギルドに伝えれば幾ばくかの情報料がもらえるかもしれないが、どのようにしてこの情報を得たのか事細かに聞かれるだろう。普段俺が狩りをしている場所の近くなら言い訳のしようが幾らでもがあるが、この場所は俺の拠点としている町からかなりの距離がある。下手な言い訳は、自分の首を絞めることにつながるだろう。
かといって、このオーガを倒して経験値を得ることも難しいだろう。確かにかなりの傷を負っているが、今の眷属スライム程度ではどうやっても勝つことは不可能だ。地力が違い過ぎる。時間が経てばより衰弱してそのまま死ぬかもしれないが、逆に回復してここから逃げ出すかもしれない。しかしそれでは、せっかく見つけたので少しもったいない気もする。
しかたない。ここは第3の道、オーガを助けて恩を売る作戦で行くとするか。オーガはゴブリンやオークなどよりもはるかに高い知性を持っているから、恩を売っておけばいつか返してくれるかもしれない。拙いが人語もある程度は理解しているとも聞くからコミュニケーションも取れるだろう。まぁ作戦というにはかなり出たとこ勝負のような気がするが、何もしないよりははるかにましだ。
『よう、ボロボロじゃないか。手を貸してやろうか?』
『誰ダ!ドコニイル!』
『目の前にいるじゃないか。いや、そっちじゃない、こっちだこっち。そう、お前の目の前にいるこのスライムだ』
『馬鹿ナ!スライムガ話セルワケガナイ!』
『声など所詮空気の振動だ。スライム細胞の操作を極めた俺なら、スライム細胞を振動させることで、声のようなものを作り出すことはいくらでもできる。と、お前が聞きたいことはそんなことではないだろうがな』
『グ…、マァイイ。手ヲ貸ストハドウイウコトダ。ナゼオ前ガソノヨウナ事ヲスル』
『詳しいことは言えないが、簡単に言うとお前のような強い魔物に暴れてもらい、人や魔物に多くの死者が出てもらうことが俺にとっての利益につながるんだよ。それで、どうする?』
『……オ前ノヨウナ怪シイヤツノ言ウコトヲ聞クノハ癪ダガ、正直今ノ俺ノチカラダケデコノ状況ヲ打開デキルトモ思エナイ。俺ハコンナ所で死ニタクナイ。オ前ガ何者デモカマワナイ。チカラヲ貸シテホシイ…』
『契約成立だな。これで俺とお前は晴れて共犯者になったわけだ。お前…と呼ぶには忍びない、名前を教えてくれないか?』
『俺ノ名ハ、ジル。オ前ハ何ト呼ベバイイ?』
『悪いが、名前を教えることはできない。どこから俺の情報が洩れるか分からないからな。俺を呼ぶときはそうだな…16番とでも呼んでくれ。』
16番という数字は、このスライムを眷属にした時の順番だが、今はそこまで説明してやる必要はないだろう。
『16番カ。何カノ隠語ナノカ?マァイイ。ソレデ手ヲ貸ストイウコトダガ、ドウスルツモリナンダ?』
『今その場所に俺の部下が薬草と食料を持って向かっている。本当はポーションでも持たせてやりたかったんだがな。冒険者が周辺を警戒している状況で、ポーションを持って移動しているスライムなんて怪しいことこの上ないだろ。そっちにつく前に狩り殺されちまう』
『分カッタ。俺ハ助ケテモラウ側ダカラナ、文句ハ言エナイ。16番ニ任セル』
『おう、俺にどんと任せておけ。ただ部下がそっちに着くまでにもう少し時間がかかるな…何か話でもして時間をつぶすか。さっきも言ったが俺のことはほとんど話せないから、ジルのことを教えてくれないか?個人的には同族のいないこの場所に来た理由なんかが知りたいんだが』
ジルにとってはあまり楽しい話ではなかったのか、多少渋っていたが俺に対して恩を感じているらしく、少しずつではあるが話をしてくれた。