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 「対象の精神を操る能力と言ったが、こいつでマリスレイブにいる冒険者やら衛兵らをあらかた支配してしまえば、今までの面倒な調査やら工作なんて必要なかったんじゃなかったのか?」


 「そこまでの能力は残念ながらこいつにはないんだ。冒険者なら銅級1人がぎりぎりってところかな。ここにいる人間のように戦闘能力が皆無に等しい連中なら、多分10人ぐらいならなんとか支配できると思う。こいつの位階が上がれば支配できる人数なんかをもっと増やせるだろうけど、今の段階じゃこれが限界なんだ」


 「色々と制約のある能力と言うことなんだね。だったら、奴隷商の商会長なんかを連れ去ってきて、このドミネイト・スライムで支配しちゃえばいいんじゃないかな?」


 「俺も最初はそうしようと思っていたんだけど、調べたところやっぱりそういった役職の人たちは、それなりの護衛を雇っているからな。俺達が協力すれば護衛自体はどうとでもなるけど、その後に商会長だけは無事に帰ってきました、と言うことになっても、どう考えても怪しいだろ。下手したら強制的に隠居させられるかもだし。そうなったら、その労力が無駄になる……ってこの話どこかでしたような…」


 「私と話したわね」


 「そうだった、そうだった。あの時は確か『同化』について話した内容だったな」


 「ちょっ!いいの?ここにいる獣人達にはまだそのことは話してはいないんでしょ?」


 「ま、大丈夫だろ。ここ数カ月一緒に行動してきたけど、彼らが十分信用に値する人物だって分かったし。と、いうわけでレオン達にも俺の正体と、最終的な目標を話そうと思う。これは俺なりの信用の表れだと思ってくれ。あ、ここにいる連中とエルフ以外には他言無用で頼むな」


 そう前置きをしたうえで、俺が前世では人間で上司に裏切られた後に殺されて、その記憶を引き継いでスライムに生まれ変わったことを含めてすべてを話した。かなり驚いているような様子を見せたが、俺が人間の姿をしているのに、人間を殺すことに一切の容赦がないことに、納得がいったという独り言も聞こえた。


 「それを俺達に話して、今回俺達に協力した見返りにその復讐に協力しろってことか?」


 「まさか。第一これは俺の復讐だ。誰にも邪魔はさせないし、協力なんてしてもらっても逆に迷惑だ。俺は、俺自身の手で、奴らを俺以上の目に合わせてやらないと気が済まないと思っている」


 「お前はそういつ奴だろうな。短い付き合いではあるがそのぐらいのことは理解しているつもりだ。確認のために聞いたわけだが…そんな込み入った話をするまで俺達を信用してくれるのは嬉しいが、用心深く、慎重な性格のお前が俺達にそこまで話してくれることに少し驚いてもいる」


 「今回の件は俺が亜人を助けるといった形で、当事者ではなく、いわば手伝いの様な形だからな。俺と獣人達とでは心構えが違うと思われるのも嫌だから、こうした話をしたわけだ。俺もそれなりに覚悟を決めて、今回の作戦に挑んでいるってことを証明したかったんだが…少しは伝わったかな?」


 「もちろんだ。信用には信用で返すとしよう。元人間であり人間のことを知っているお前の方が、獣人である俺達よりも、よりよい作戦を練ってくれているはずだ。俺達を使って亜人解放作戦を成功させてくれ」


 「もちろんだ……ってかなり長い間話をしているけどこの人間、起きる気配が一向にないな。何したんだ?」


 「少しばかり強力な薬を使わせてもらっただけだ。効果が高い分、しばらくは虚脱感に悩むことになるだろうな。まぁ、こいつらが獣人に対してした仕打ちに比べればどうということはない」


 話を聞けばこいつは思った通り奴隷商で、獣人の移送中に解放軍が襲撃し拘束したらしい。それにしても、獣人の奴隷の扱いか…あの都市で色々と調べていく中で分かっていたことではあるが、かなりひどいものであった。


 奴隷としては、主に家族連れの獣人が狙われていたらしい。それをバラバラに管理することで、それぞれがそれぞれの、人質としての役割を担うためだそうだ。過酷な環境に置かれながらも、親には自分たちが懸命に働けば子供らの待遇が良くなると伝え、子供らには自分たちがおとなしくすれば時期に両親に合わせてやると伝えていたそうだ。


 そうして少しづつ両者の反抗する意思と体力を奪っていき、従順な奴隷へと仕上げていくのだそうだ。


 正直言って、こりゃマリスレイブの住民も、亜人たちに対して同情的になるのも仕方ないわと言わざるを得ない環境に置かれていた。それが良い事なのか、悪い事なのか。


 亜人奴隷の販路を領外に求めざるを得なくなったことにより、亜人救出作戦を前倒しで進めなくてはならなくなったことに対しては、悪いことだと言えるだろう。しかし、獣人達が同胞を救うために都市を襲撃すること、に多少なりとも「仕方のないこと」と納得してくれるかもしれないことに関しては、良い事なのかもしれない。


 つまり悪いのは亜人ではなく、罪のない亜人を攫ってきて奴隷としてこき使ってきた奴隷商が悪いという形で今回の作戦を終わらせることが出来れば、今後の獣人達に対する市民感情がそれほど悪いモノにはならないと思う。


 今回は色々と考えなければならないことが多すぎた。魔物を率いて好き勝手に町を襲撃した方がずっと楽だったなと、今更ながら思わずにはいられない。


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