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さらに数日が経ち、ロルフを連れて再びフィリップ形態に擬態して、冒険者ギルドに向かった。
建物の中に入り、1週間前に俺が『麒麟』の鱗を渡した受付嬢と同じ嬢の前に移動する。彼女も俺の姿を当然忘れていなかったようで、俺の許可を得た後奥の方へ行きラバナスを連れて来た。
「これはフィリップ様、お久しぶりです。以前お話を受けた依頼について、少し確認したいこともございますので別室の方へ移動しましょう」
「俺は別にここで話しても構わんぞ?」
「左様でございますか。大変恐縮ではありますが、実はギルドとしましては『麒麟』がいたという証言が獣人の奴隷のみでは、すこし確実性に欠けるということになりまして…」
「何だと!この薄汚い獣人風情が!貴様らの信用が無いからこんなことになったんだぞ!この責任どうやって取るつもりだ!」
「ひぃっ。も、申し訳ありません。フィリップ様!お願いです!信じてください、俺はこの目でちゃんと見たんです…」
「ち、ちょっと、お待ちください。この話には続きがありまして。実は数日前にサルカの森に採取の依頼に出た冒険者から、フィリップ様がお持ちしたものと同じ鱗を持ち帰った方がいらっしゃいまして」
「何ぃ?だったらそれは、あの森に『麒麟』のいることの証明になるではないか。おい!良かったな、獣人。その冒険者に感謝しておけ」
「はひぃ、ありがとうございますぅ」
「すみません、ですがその冒険者も鱗以外の証拠は持ち合わせていなかったみたいなので、やはり『麒麟』のいる証拠としては、少しばかり心もとないかと…。ですので依頼の内容を『麒麟の討伐』ではなく『サルカの森の調査』としていただければこちらも依頼として通しやすいのですが…」
「なるほど、『麒麟の討伐』という依頼として通すのが難しいから、表向きの、別な依頼を用意するということか。俺はそれでもかまわないぞ。結果さえ出ればな」
「ありがとうございます。実はもう1点、お伝えしておかなければならないこともございまして…」
「何だ、言ってみろ」
「ここまでの流れをゼノン・パルドクスに伝えていまして、すでに色よい返事は頂いております。ですが、彼もまた自分が討伐した『麒麟』の素材が欲しいと言っていまして。勿論すべてではなく、半分ほどでもらえるのであれば、討伐依頼として受け取る報酬金額は減額しても構わないと言っております」
「半分、か…おい!獣人!『麒麟』の大きさはどれほどのものだったんだ」
「は、はい!。フィリップ様が飼われている軍馬よりも一回りも、二回りも大きかったと記憶しております!」
「であるなら、半分ぐらい取られても問題は無いか…分かった、こちらはその条件で構わないと伝えて置け」
その後報酬の額など細々とした手続きをして、前払い金としてそれなりの量の金貨を支払う。アダマンタイト級冒険者を雇うのは非常に金がかかるのだが、それを先方の方から減額の話を持ってきてくれるとは運が良かった。金銭にはまだ多少の余裕はあるが、今後どのような出費があるか分からない現状ではあまりお金を使いたくは無かった。
だが、まぁ、ゼノンからすれば、多少の金銭よりも今後いつ手に入るかもわからない『麒麟』の素材の方が、価値が高いと判断するのは当然と言えるだろう。しかし当然サルカの森には『麒麟』はいないので素材をとることは叶わず、こちらが一方的に得をする結果になる。
「さて、これで一通りの手続きは終了しました。…と、そういえばフィリップ様がお持ちしたこの鱗、どこで見つけたのかお教えいただけますか?そこを中心に探索しますので」
そういって一枚の地図を俺達に見せてくる。販売用ではない、かなり精巧に作られた物であり、それなりの価値がありそうな気がするやつだ。そういえば最近は色々と忙しくて、サルカの森には眷属の手がまだ行き届いていない。今後のことも考えて、この地図をしっかり記憶しておくことにしよう。
眷属達にも同じ光景を見せることで記憶を確実なものにしておく。俺の意図を読んでくれたのかは分からないが、ロルフはたっぷり時間をかけて悩んだふりをしてくれた後、小川にほど近いある一か所を指さした。
「ここで間違いないんだな!」
「は、はい!間違いありません」
「うーん、マジク君が…うちの冒険者が鱗を見つけた場所と多少離れているが、『麒麟』であるならこの距離は大したものでもないのかもしれんな…分かりました、この情報をもとに捜索をさせましょう」
依頼を出した証明となる半券を受け取り、やるべきことは終わったとばかりにさっさとギルドから立ち去る。さて、ゼノン以外にどれだけの数の冒険者がサルカの森に行くのかは分からないが、あくまでも目的はゼノンを遠くに追いやることだ。まぁ、周りに冒険者のいる状況でぺらぺらと情報を話したのだから、何人かは釣れて欲しい所ではあるが。
麒麟の鱗は当然まだまだ在庫がある。獣人達に頼んでサルカの森に追加で鱗を蒔くように頼んでみよう。鱗を回収できたという話を聞いた冒険者が、もっと減るかもしれないからな。




