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 「ギルドとしては、正直この件に関してどのように対応すればいいのか迷っていてな。ゼノンの奴を派遣するにしても、少しばかり情報が足りないのだ」


 「確かに、その通りだと思います。実際に『麒麟』を見たのが奴隷の獣人だけというのは少しばかり信ぴょう性に欠けてしまいますよね。ですが渡された鱗は本物の『麒麟』のものだったんですよね?」


 「大きさと言い残留魔力と言い、まず間違いないだろうというのが素材買取部門の意見だった。ああ、もちろん君が持ち込んだ物も本物だろうな」


 「ということは、サルカの森にいるのかは別として、『麒麟』がこの都市の近場にいる可能性は、十分に高いということでしょうか?」


 「恐らくは、な。ちなみにマジク君、君はこの件どう思う?」


 「仮にですがそのフィリップと言う方が嘘の情報をギルドに伝えたとしても、それをする理由に見当がつきませんからね。まぁ、多少怪しいところはありますが」


 「嘘をつく理由が無い」と言うことを強調しておき、サルカの森に『麒麟』がいると言い切るのではなく、『麒麟』がいる可能性は十分に有るという含みを持たせた言い方に留めておく。言質はとらせない。そして、あくまでマジクは善意の第3者。フィリップに有利なことばかり言うのではなく、俺の望む結果へと誘導するのはかなり難しい。


 「やはりそうか。俺達もギルドマスターとこの依頼について話をした結果、同じ結論に至ったんだ。元より、隷属の首輪をつけられた獣人が主人に嘘をつけるとも思えんしな…。ちなみにマジク君。君は冒険者として各地を旅してきたんだな?そんな君の意見を聞いておきたい。君がギルドの職員ならどういった対応をする?」


 「一冒険者にそんなことを聞くんですか?仮に俺の出した意見が間違ってしまっていた場合、責任なんて取れませんよ」


 「君に責任を取ってもらうつもりなんてないさ。本当に、ただ、現役のミスリル級冒険者である君の意見が聞きたいだけなんだ」


 「そこまで言われるのでしたら……情報の真偽はさておいて、確か、すでに手付金は受け取られているんですよね?だとしたら、そもそもこの依頼を断るというのは難しいのではないでしょうか?」


 「手付金を受け取ったというよりは、フィリップ殿が置いていったといった感じだったな。断る可能性も考えて返却しようとしたが、あの後すぐに受付に『麒麟』の鱗を一目見ようと冒険者が集まってきてしまって、彼らが邪魔になって返すことが出来なかったんだ」


 「理由はどうあれ、フィリップさんからすれば手付金を支払ったことで、すでにギルドはこの依頼を受領したものとみなしている可能性も十分に有りますよね。それを今更断るというのは…ギルドからすれば、ちょっと外聞が悪いですね」


 手付金を受け取ってしまったということを強調して、ギルドの不手際をさりげなく指摘する。これがただの冒険者であれば聞き流されてもおかしくないが、俺は比較的人望のあるミスリル級の冒険者だ。その言を真っ向から否定することは出来ないだろう。


 とはいえ俺は善意の第3者(ここ大事)。フィリップの肩だけでなく、ギルドをかばうようなことも言っておかないと。


 「いや、もしかすると、それがフィリップさんの狙いだったのかもせませんね。『麒麟』の鱗を渡すことでギルドの目をそちらに向かわせ、さりげなく手付金を支払うことで、なし崩し的に依頼を受領させようという」


 「そ、それは……!考えてもみませんでしたね。しかし、その狙いは?」


 「普通に考えたら彼自身『麒麟』がいると確信しているからこそ、姑息な手段を用いてでも、ゼノンさんを派遣してもらいたかった…そう考えるのが一番自然なのではないでしょうか」


 その後しばらく会話を続け、ゼノン・パルドクスをサルカの森に派遣することがほぼ決定的な流れになった。途中「もし本当に『麒麟』がいるのなら他の支部から応援を呼んだ方が良いのではないか」との意見が出た時は本気で焦ったが、「情報が不確かな現状で応援を呼べば、下手したらこの支部の評判を落とすことになりかねない。せめて獣人以外の目撃情報があってから派遣要請しても遅くはない」と言って何とかなだめることが出来た。


 「ふぅ、まぁこんなところですかね。色々と相談に乗っていただきありがとうございます」


 「お役に立てて何よりです。そういえば、俺の持ち込んだ鱗どうしますか?」


 「こちらとしましては、追加の証拠品として買い取らせていただきたいと思いますが…いいですか?」


 「適正価格で買い取っていただけるのでしたらもちろん、構いませんよ。鱗一枚ではスケイルメイルの材料にも、剣の素材にもなりえませんので」


 結果から言えば『麒麟』の鱗はその希少性も相まって、金貨3枚で売ることが出来た。そして大声で驚いたような声をあげることで、さりげなく周りにいる冒険者にも売却額知られるようにしておく。こうすることで、自分達のパーティーもサルカの森に落ちているかもしれない『麒麟』の素材を探しに行こうとする冒険者もいるかもしれない。


 実際ラバナスと別れた後、どこでこの鱗を拾ったのか、周りにいた冒険者から根掘り葉掘り聞かれたので正直に答えて置いた。あまりにも正直に答えたので多少疑われてしまったが、「麒麟がいるかもしれない森に当分行くつもりはない、つまりこの情報は俺にとって何の価値もないものだ」と、答えておくと皆納得した表情を見せていた。俺が慎重な性格なのは周知の事実なのだろう。


 拙いながらなかなかに頑張った方だと思う。まぁ、ギルドとすれば元々派遣する予定ではあったが、少しばかりの不安が残る、といった感じだったのだろう。つまり俺が何もしなくてもゼノン・パルドクスを派遣したかもしれない。俺は少しだけギルドの背中を押しただけなのかもしれないが、何もしないよりもはるかにいいだろう。


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