表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/271

123

 穴を掘り始めて半年がたった。


 穴自体は1月ほどで無事貫通し、周囲に不審がられないよう少しずつではあるが獣人を都市内部に潜入させることに成功している。今では潜入させた獣人達にも都市の情報収集を手伝ってもらうことで、これまでよりもはるかに多くの情報を得ることが出来るようになっていた。


 俺は日中は冒険者として働いて名を売る一方、夜間は奴隷商の館に侵入して帳簿などを盗み見て亜人がどこに売られたのか確認する作業をしている。そこで仕入れた情報を獣人にも渡すことで彼ら現場に赴いてその情報の真偽を確かめてもらい、俺達が行動を起こした時に即座に助けに行くことが出来る様に下準備も同時に進めてもらっている。


 そういえば最近になってようやく、捕らわれたエルフの子供らと会うことが出来た。流石は超高額で取引されるであろう、最高級奴隷(予定)。警備が尋常ではなかったが、何とか隙を窺うことで会うことが出来たのだ。


 出会った瞬間こそ突然現れた人の言葉を話す謎のネズミを訝しんでいたが、俺の知っているエルフの名前だったり、里の情報なんかを話すことでようやく信用してくれるようになった。


 暴力を振るわれたり粗雑な扱いを受けてはいないようだったが、性に関する知識はかなり得ているようだった。無事里に帰ったとき、彼、彼女らの両親がそのことに頭を抱えるかもだが、そこは俺の仕事の範囲外だ。頑張ってもらうことにしよう。


 とりあえずめったなことは言えないので「俺達が助けに来るまで周囲に怪しまれないよう、今までの様にがんばれ」と、ありきたりなことを言って別れることにした。


 順調に行っている。この調子で完璧な解放作戦を作り出して見せると決意した矢先、城壁の外にいる獣人達と協力しているパラサイト・スライムを通じて念話が入る。


 『ゼロ、やばいぞ!獣人の奴隷が他の都市に移送される頻度が増え始めた!』


 いずれはそうなるだろうと思っていたが想定よりもはるかに速い。それほどマリスレイブの経済発展が鈍化してきているという事か。


 元々、亜人を奴隷とすることで経済の活性化をしようなんて無理があったのだ。この国ではそれほど亜人が迫害の対象でもなかったし、人里離れれば獣人の住まう村などそう珍しいものでもなかったからだ。


 そのため地方の村出身者だと亜人の住む村と交流があった村などそう珍しくもなかった。そんな中で急に亜人を奴隷とする政策をとったからと言って、その下地のない状態では上手くいくはずが無かったのだ。


 それでも最初何とかなっていたのは亜人を迫害の対象とする教会からの支援と、亜人とあまりかかわりを持たなかった、己の利益を第一とする都市出身の商人たちのおかげだろう。


 しかしそんな彼らでも市民感情を完璧にコントロールできるはずもない。少しずつではあるが亜人に対する同情は募っていき、それが亜人を奴隷として売買することの弊害になりつつあったのだ。


 それが原因か最近ではマリスレイブ内での奴隷販売に翳りが差し、領主が思ったほどの経済効果が出なくなりはじめたのだ。そしておそらく、領内がダメなら領外で売ればいいという思考に至ったんだと思う。


 話しからすると今はまだ外に出されている獣人の奴隷は少ないが、これから増えることはあっても減ることは無い。その都度解放軍が邪魔をすればいずれは領主にも話は行き、高位の冒険者を解放軍討伐の為に派遣されるかもしれない。


 そうなってしまえば、これまで懸命に積み上げてきたものがすべて無駄になってしまう。早々に手を打たなければならなくなってしまった。


 『分かった。本当はもう少し事前の調査に時間を掛けたかったけど、行動を開始することにする。とは言え、いますぐに動いてもらうという事は無い。それでも心づもりだけはしておくよう他のメンバーに伝えといてくれ』


 さて、いよいよ行動を起こす段階になったが、とりあえずやっておかなければならないことがある。その為の協力者としてロルフに来てもらい、一通り情報を伝える。


 「確かにあまり時間は残されて無いみたいだね。それで僕を呼んだ理由は何?」


 「俺達にとって最大の難敵になるであろう、アダマンタイト級冒険者、ゼノン・パルドクスに対処するために協力してほしいんだ」


 「……分かった。命がけで挑ませてもらうよ。ただ、彼が相手だとそれほど時間を稼ぐことは出来ないかもだけど」


 「?何か勘違いしてないか?少しばかり演技してもらうだけでいいんだが」


 「えっ?そんなことで、ゼノン・パルドクスに対処できるの?」


 「勿論さ。あいつが冒険者で、自分の強さに誇りを持っているのは調査済みなのだからな」


 第一、何で俺がロルフを犠牲にしなきゃならんのか。仲間の被害を極力減らすために事前の調査に時間をかけたのに。ここで彼を犠牲にするのなら、それこそ本末転倒ではないか。


 その為の布石となる依頼を冒険者ギルドで受注して、ロルフと共に演技の練習を始めることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ